研究課題名:減数分裂における制御機構

1.研究課題名:

減数分裂における制御機構

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

山本 正幸(東京大学大学院理学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 有性生殖はゲノムを組換えて多様で複雑な生命世界を生み出す原動力となったと考えられる。有性生殖の分子機構の解明は、生命の辿ってきた歴史を知るためにも、生殖細胞の形成不全や染色体分配の異常などの疾病を根本から理解するためにも重要である。有性生殖過程のうち、減数分裂は、接合・受精に先立ち正しく染色体数を半減させ、相同染色体間に高頻度の組換えを誘発して遺伝情報の交換をもたらす極めて重要なステップである。本研究では、分裂酵母を主要な研究対象として、以下の5課題を通じ、減数分裂のメカニズムと制御を分子レベルで解明することを目指す。(1)減数分裂に必要とされるいくつかのmRNAは、栄養増殖時に自身を積極的に不安定化する領域をもつことを見いだした。この不安定化の機構を解明するとともに、減数分裂開始時にそれらを安定化する機構を明らかにする。(2)外界の状態と細胞の生理状態をつなぐTORキナーゼに注目して解析を進め、分裂酵母で減数分裂の引き金となる窒素源飢餓の情報伝達経路を解き明かす。(3)減数分裂の開始と第一分裂の促進に枢要な働きをするRNA結合タンパク質Mei2pの分子機能の特定を進める。(4)減数分裂に特徴的な染色体構造の構築や核運動に関わる分子を同定し、機能を解明する。(5)減数第二分裂を行うために、第一分裂後にサイクリン分解を阻害してCDK活性を適切なレベルに保持するMes1pを見いだした。その解析を通じて減数第二分裂の理解を深める。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 目的で述べた5課題ごとに分けて述べる。(1)体細胞分裂周期において減数分裂に必要なmRNAを転写直後に取り除くのに関わっている新規RNA結合タンパク質Mmi1pを発見した。少なくとも10以上の減数分裂関連遺伝子のmRNAがMmi1pによる選択的除去を受けている。さらに、課題(3)の研究対象である減数分裂制御因子Mei2pが、減数分裂の際にMmi1pを核内の一点に引きつけて、Mmi1pを減数分裂特異的mRNAから隔離し、これらのmRNAが安定に働けるようにしていることを証明した。(2)分裂酵母の2つのTORキナーゼのうち、生育に必須とされていたTor2pについて温度感受性株を作製したところ、制限温度で有性生殖を開始するという興味深い表現型を示した。Tor2pの機能が欠損した細胞は、窒素源飢餓にさらされた場合と同様の遺伝子発現パターンを示すことが分かった。(4)減数分裂特異的な核運動に関与する新たな紡錘極体構成因子のHrs1pを同定し、Hrs1pが間期微小管を星状微小管へと再編成する因子であることを証明した。Hrs1pが減数分裂の進行に伴って時期特異的に分解されることを認めている。ダイナクチンサブユニットSsm4pおよび微小管を束ねるAse1pの核運動への関与を証明した。(5)Mes1pが、後期促進因子(APC)の活性化因子Slp1pの働きを抑えることで、APCによるcyclin Bの分解を阻害して第二分裂に必要なMPF活性を確保する役割をもつことを解明した。Mes1pはそれ自身もAPCによる分解を受けることを突き止めた。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本研究は、分裂酵母を主要な研究対象として、減数分裂のメカニズムと制御を詳細かつ総合的に理解することを目指しており、研究の進捗は非常に順調である。特に、減数分裂開始のスイッチとして機能するRNA結合タンパク質などの機能を明らかにすることで、減数分裂特異的mRNAの安定化機構を中心とした減数分裂開始制御の新たなモデルを提唱するに至るなど研究の成果は目覚しい。また、減数分裂の引き金のとなる生理条件の一つである窒素飢餓よる有性生殖の制御、加えて減数分裂特異的な核ダイナミックスと減数分裂スイッチの関連、さらに減数第二分裂の制御機構など、重要な問題の解決を目標に掲げ依然として研究は発展中である。大いに成果に富む進捗状況を高く評価するとともに、今後の進展に期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --