研究課題名:サイトカインによる免疫応答制御機構と自己免疫疾患の発症機構

1.研究課題名:

サイトカインによる免疫応答制御機構と自己免疫疾患の発症機構

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

平野 俊夫(大阪大学大学院生命機能研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

目的:インターロイキン6(IL-6)をサイトカインシステムのモデルとして、サイトカインシグナル伝達機構を明らかにする。さらにIL-6信号の異常が引き起こす自己免疫発症機構を変異gp130を持つノックインマウス(F759)を用いて検討する。F759は自己免疫性関節炎を自然発症し、T細胞や樹状細胞にも機能異常を持つ。これら免疫異常のメカニズムを分子レベルで明らかにし、IL-6による正常の免疫応答の制御機構の一端を明らかにする。さらに、サイトカインの信号異常によって生じる自己免疫疾患に普遍的な機構を明らかにする。
 意義:IL-6をモデルとしてサイトカインシグナル伝達機構や、自己反応性T細胞制御機構、樹状細胞の抗原提供機構などが明らかになる。さらにIL-6信号異常によって誘導される自己免疫性関節炎の発症機構の一端が明らかになる。これらの研究成果は将来、自己免疫疾患の治療法や、有効なワクチンの開発、癌免疫、移植片拒絶反応の人為的制御やアレルギーの制御への応用が可能である。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

2003年4月より研究を開始、現在研究は研究計画に基づきおおむね順調に経過している。この間特記すべきこととして、細胞内亜鉛シグナルの存在の発見という予想外の研究成果を得た。生体にとって亜鉛は必須の金属であり、その欠損は、免疫不全や成長障害、神経系の異常を誘導する。また、ユビキチンリガーゼや炎症性プロテアーゼなど300種以上の酵素が亜鉛を必要とする。またZn(亜鉛)フィンガーを有した多くの亜鉛要求性の転写因子やシグナル伝達分子が存在する。しかし、亜鉛の重要性は単に必須栄養素の観点から考えられていた。すなわちこれら亜鉛要求性の重要な分子の構造の維持のためであると考えられていたが、亜鉛がシグナル分子として作用するとは誰も考えていなかった。今回、亜鉛がシグナル分子として作用するという発見は、免疫のみならず、学問分野を超えて生命科学全体に大きく貢献するものである。またIL-6シグナルの異常で生じる自己免疫性関節炎の発症機構とCD4 T細胞のホメオスタテック分裂の関係を明らかにするとともに、免疫システムと非免疫組織の相互作用により自己免疫疾患が発症すると言う新しい概念を提唱した。さらに、従来IL-10が主たる樹状細胞の成熟抑制因子であると信じられていたが、生体内ではIL-6が樹状細胞の成熟の主たる抑制因子であるという意外な事実を明らかにした。この研究成果をもとに、IL-6-STAT3による樹状細胞での蛋白分解酵素の制御を介するMHC class2 総量の調節および樹状細胞におけるMHCクラス2抗原を含む小胞の細胞内での保持のメカニズムの一端を明らかにした。また、樹状細胞成熟分化における亜鉛シグナルの役割も明らかにできた。これらの基礎的な研究成果により、サイトカインの作用機構や、その免疫応答における役割が明らかになるだけでなく、自己免疫疾患の発症機構の一端がサイトカインシグナル伝達の立場から明らかにできると考えられる。さらに亜鉛シグナルおよび亜鉛による免疫制御という新しい研究分野を切り開いていけると考えられる。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 同サイトカインがもつ多彩な細胞制御機構の解明に向けた研究が多面的かつ精力的に展開されている。その中で、IL-6/gp130システムにおけるシグナル異常により発症する関節炎モデルマウスの解析により、自己免疫性疾患の発症には免疫システムと非免疫系標的組織との相互作用が重要な要因であるという概念を、実際に得られた知見をもとに提唱している。これは、多様な発症機構をもつ自己免疫疾患を理解するためのユニークなアプローチであると評価できる。また、STAT3下流の解析から新たに発見された細胞内亜鉛シグナルについての研究も順当に進展しており、その樹状細胞成熟分化における役割を明らかにした。当研究が提唱する亜鉛シグナルによる新たな細胞内シグナル伝達系の概念は、免疫学のみならず他の生命科学分野にも影響かつ貢献しうる独創的なものであり、今後の展開に期待がもたれる。研究組織は適切であり、研究費も効果的に運用されている。総じて、本研究はきわめて順調に進行しているものと評価される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --