研究課題名:オートファジーを支える膜動態の解析に基づく細胞内膜形成機構の解明

1.研究課題名:

オートファジーを支える膜動態の解析に基づく細胞内膜形成機構の解明

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

大隅 良典(自然科学研究機構基礎生物学研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 全ての生命活動はタンパク質の合成と分解のバランスの上に成り立っている。本研究は細胞内における主要な分解経路であるオートファジーの分子機構とその生理的役割を明らかにし、その特異な膜動態の解析を通じて細胞内の膜形成機構に関する新しい概念の創出を意図するものである。
 申請者は過去18年に亘る研究から、オートファジーに関わる17個のATG遺伝子を分離同定し、それらが5つの全く新規の反応系を構成することを明らかにした。その半数は2つのユビキチン様タンパク質結合反応系をなしており、タンパク質結合体、脂質結合体を形成する。他はそれぞれ、タンパク質、脂質キナーゼ複合体、機能不明の複合体を構成している。その詳細な機構の解明を本研究の第一の目的とする。具体的には、2つのユビキチン様タンパク質結合反応の解明を進め、5つの反応系の細胞内での空間的、時間的な相互関係を明らかにし複雑な反応系の必然性を解明する。第2の目的は、オートファゴソーム形成過程を明らかにすることにより、細胞内の新規の膜形成機構に新たな提言をすることにある。このために、Apg8のPE化、PI3Pを指標として脂質の細胞内動態の解析を進める。第3にAtgホモログの解析を通じて酵母及び高等動植物のオートファジーの生理的意義を明らかにする。
 オートファジーは全ての真核細胞に普遍的な生理機能であり、その機構の解明は、タンパク質分解のみならず細胞を真に理解することに大きな貢献をする。オートファジーと病態との関連の解明もまた重要である。また、この領域で世界に発信するセンターとしての役割を果たすことは、大きな波及効果を持つものである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 特別推進の課題として採用され、3年半が経過したが、計画は順調に推移しており、今後短期間に新たな進展が期待できると思われ、計画の大きな変更は要しない。
 この間オートファジーの重要性が多くの研究者に認識され、一流誌に毎号のように関連論文が掲載される状況になり、従来考えられた以上に多様な生命現象に関わっていることが明らかになりつつある。しかし、本研究課題が目標とする分子機構の解明という視点からの研究は未だに限られている。本研究課題の目的は、オートファジーに関わる分子装置の解明と、その解析から細胞の基本的な機能を理解することである。そのためにオートファジーにおける最も重要な過程であるオートファゴソーム形成に関わる17個のAtg因子の機能解析を進めている。この期間で個々のタンパク質の関する多くの知見が蓄積するとともに、これら17個Atgを1つのシステムとして理解することが必須であることがあきらかとなった。この間の主なる成果はオートファゴソーム形成に中心的な役割を持つPAS形成に関する系統的な解析が完了し、その全Atgタンパク質のネットワークが明らかとなった。5つの機能単位間の相互関係の理解が進んだ。2つのユビキチン様反応系のin vitro再構成系が確立され、両者の関係、及びAtg8-PE分子の機能に関する重要な知見が得られた。またオートファジーが選択的で、かつ構成的な分解系として機能していることを示すことに成功した。高等動植物においてオートファジーの進行を可視化することに成功し、ノックアウト個体の表現型の解析が進んだ。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 オートファジーを総合的に解析することを目的とした本研究では、オートファジー研究における酵母研究の拠点として、現象論にとどまらず、分子の構造・機能に立脚した分子レベルの研究が、計画通り、着実に進展しており、期待された成果の報告がなされている。また、ポスドクを中心とした若手の研究者を育成し、輩出している点も評価される。本研究は他分野にも広く関わる基礎現象を対象としており、オートファジーに関する研究報告数が急上昇しているように、多分野への波及効果は極めて大きい。オートファジーに関わるATG遺伝子のシステマティックな遺伝学的研究に加え、in vitroの再構成等、多面的なアプローチがなされており、膜動態に関する重要なヒントが得られはじめているほか、constitutive autophagyという興味深い新たな現象も見出されている。今後、これまでに得られた知見と新たに開発された実験系を用いて、オートファゴソーム形成の分子機構解明にむけた研究の集約と、さらにインパクトのある研究成果の発表が期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --