研究課題名:2光子励起顕微鏡法を用いたシナプス・開口放出機構の研究

1.研究課題名:

2光子励起顕微鏡法を用いたシナプス・開口放出機構の研究

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

河西 春郎(自然科学研究機構生理学研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 2光子励起断層顕微鏡法は近赤外のフェムト秒レーザーを光源として用い、他の顕微鏡法では観察できないインタクトな組織内部の分子細胞機構の観察を可能としている。更に、我々は2光子励起をケイジドグルタミン酸に適用し、大脳皮質錐体細胞の樹状突起の単一スパイン(シナプス後部構造)を刺激する方法を確立し、スパインの形態と機能に強い相関があることを解明した。また、この2光子励起グルタミン酸法によって、単一スパインレベルで可塑性を誘発することに成功し、シナプス可塑性の基盤に早期から形態変化が伴うこと、及び、長期可塑性はスパインの初期形態に依存することを見出した。このシナプスの形態・安定性・機能の連関は大脳の記憶の分子細胞的実態と考えられる。この仮説を具体的に検証するために、シナプスの形態・安定性・機能連関の定量的解明を進め、シナプスレベルの脳機能解析法を開拓する。一方、開口放出はシナプス前終末のみならず内分泌細胞、血液細胞の主要な機能でありシナプス後部でも重要な役割を果たすと考えられている。我々は、2光子励起法の同時多重染色性を生かした開口放出の新しい網羅的解析法を分泌細胞において確立した。本研究ではこれを発展させ、代表的な分泌細胞の開口放出機構の解明を更に進め、これに基づきシナプスでの開口放出の直接的測定法を開発し、シナプス機能の統合的理解を進める。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 2光子励起法による光化学と2光子蛍光観察を同時に行う二重走査2光子励起顕微鏡を新たに構築し、次の様な進捗及び成果を得ている。
 1)古典的可塑性及びスパイク時間依存的可塑性の両方において、長期増強にはスパインの頭部増大が、長期抑圧にはスパイン収縮という形態可塑性が基盤となっていることを大脳海馬で明らかにした。両者の可塑性機構の相違点も明らかにした。2)単一スパインのNMDA受容体を介するカルシウム動態を定量化し、ネックから本幹へのカルシウムの流れが長期増強、抑圧の成立をよく説明することを明らかにした。3)単一スパイン内のアクチン繊維動態を可視化し、存在位置や回転率の異なる三つのアクチン繊維があり、これらがそれぞれグルタミン酸受容体の発現、スパインの安定性、可塑性を調節している可能性を明らかにした。4)新たに内因的可塑性機構を発見し、安定化への役割を示唆した。5)成熟動物個体の新皮質において、2光子ケイジドグルタミン酸法により、形態可塑性を誘発する実験に成功した。6)開口放出を起こす小胞の大きさをナノメータ精度で測定する新手法(TEPIQ法)を開発し、多くの分泌細胞が逐次開口放出を用いていることを明らかにした。7)開口放出に伴う融合関連分子(SNAP25)の構造変化をFRETで捉えた。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本研究では、2光子励起断層顕微鏡法を応用した独創的なイメージング手法を用い、シナプスでの開口放出およびスパイン形態可塑性について、長期増強ならびに長期抑圧の形態基盤を明らかにしつつある。世界をリードする興味深い研究成果をあげていることは高く評価できる。研究は極めて順調に進展している。本システムを用いることにより、今後、スパイン形態可塑性についての分子レベルでの機能解明等の独創的研究に発展し、今まで未知であった生物事象が明確にされることが期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --