研究課題名:膜を介する(チャネルおよびGPCRを中心とした)情報伝達の分子機構研究

1.研究課題名:

膜を介する(チャネルおよびGPCRを中心とした)情報伝達の分子機構研究

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

藤吉 好則(京都大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 膜蛋白質を中心とする情報伝達と制御の分子機構を構造の視点から理解することを目的として、1)水チャネルの構造と機能、活性制御、そして高次機能の研究、2)イオンチャネルの構造と機能解析および局在化機構等による高次機能の解析、3)G蛋白質共役型受容体(GPCR)等の構造と機能解析の3つの研究課題を遂行する。3つの構造研究課題において当面の中心をなす具体的な分子の例は、1)については、脳での存在が確認されているアクアポリン-4(AQP4)で、2)については、ギャップ結合やNa+チャネル、IP3受容体で、3)は、ヒトエンドセリン受容体B型(ETBR)について、リガンドET-1が結合した状態を中心に研究する。
 これまで、構造研究の対象にできなかった哺乳動物などの膜蛋白質について、組み換え遺伝子の発現技術と、電子線結晶学、単粒子解析、解剖学、電子線トモグラフィー等の手法による構造解析技術と、各種光学顕微鏡法、さらには、電気生理や遺伝子改変マウス技術等を駆使することによって、神経細胞を中心とする情報伝達の分子機構解明を目的とする。
 この様な研究により、神経細胞などにおける情報伝達と制御機構を分子レベルから詳細に理解できるようになることが期待され、構造解析なしでは明らかに出来なかった膜蛋白質の機能の理解が深まることが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 上記、膜蛋白質を中心とする情報伝達と制御の分子機構を構造の視点から理解することを目的として、それぞれの研究課題を総合的に進めているが、特に、1)脳での存在が確認されているAQP4の昆虫細胞Sf9での発現系を確立し、2次元結晶の作製に成功した。この結晶は、2枚の膜がズレを含んで重なった2次元結晶で構造解析が非常に困難な結晶であった。カーボンサンドウィッチ法を開発すると共に、独自に開発した極低温電子顕微鏡を駆使することによって、その構造解析に成功した。この結果、AQP4分子が星状膠細胞終末足に結晶状の構造体を形成している機構とその大きさを制御する分子機構が明らかになった。さらに、浸透圧や温度、栄養のセンシングに関わる視床下部のグリア層において、AQP4分子がこれらの細胞を接着している構造が明らかになった。AQP4は水チャネルでありながら、細胞接着活性を有することが発見された。また、AQP0を1.9Å(オングストローム)分解能で解析し、水分子と脂質分子と共に詳細な構造を解明した。この結果は、Natureの表紙を飾った。2)については、ギャップ結合の構造解析からゲーティング機構が解明されつつある。IP3受容体のCa2+(カルシウムイオン)結合状態と非結合状態の両方の構造を氷包埋の単粒子解析法で解析。3)については、ETBRを昆虫細胞SF+を用いて発現精製する系を確立して、特にリガンドET-1が結合した状態の結晶化を目指して研究を進めている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 独自に開発した極低温電子顕微鏡を駆使することによって、膜蛋白質の分子機能を構造の視点から理解することを目的として、水チャネル、イオンチャネル、GPCRを中心に研究が順調に展開している。特にアクアポリンの解析が順調に進展しており、アクアポリン-4(AQP4)が水チャネルでありながら細胞接着活性を有することを明らかにし、新規生理学的機構を提案できる可能性を提示したインパクトは極めて大きい。またAQP0の構造解析において、1.9Å(オングストローム)という驚くべき分解能で水分子や脂質分子を同時に解析することに成功している。これらの成果は独自開発の極低温電子顕微鏡によって初めて得られたものであり、世界最先端の技術であるといえる。一方ヒトエンドセリン受容体B型をはじめとするGPCRの結晶化についてはもう少し時間を要するものと思われるが、独自の技術を基盤にして今後さらなる研究の発展が期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --