研究課題名:プロテアソームの分子集合と多様性の解析

1.研究課題名:

プロテアソームの分子集合と多様性の解析

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

田中 啓二(財団法人東京都医学研究機構・東京都臨床医学総合研究所・副所長)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 プロテアソームはユビキチンをパートナーとする真核生物のATP依存性プロテアーゼ複合体である。本酵素は触媒機能を司る20Sプロテアソーム(CP:Core Particle)の両端に調節ユニットであるPA700(RP:Regulatory Particle)が会合した分子量2.5Mdaの巨大な多成分複合体である。CPはα-Ringとβ-Ring(各々7種のα/βサブユニットから構成)がαββαの順で会合した円筒型粒子であり、RPは6個のATPaseと約15個のnon-ATPaseサブユニット群がLid(蓋部)とBase(基底部)を構成している。このようにプロテアソームは巨大で複雑な酵素複合体であり、蛋白質分解のための大がかりな細胞内装置である。しかしプロテアソームがなぜこのような多成分複合体を形成しているのかは大きな謎である。この謎を解くためにはその分子集合機構を解明することが重要であり、これを第一の研究目標と設定した。また我々の研究からプロテアソームには、複数の制御因子群が存在し分子多様性のあることが分かった。そこでプロテアソームの分子多様性の解析を第二の研究目標と設定した。さらに第三の研究として、Parkin,CHIP, SCFFbs1等のユビキチンリガーゼを中心としたユビキチンシステム研究やオートファジー(自食作用)の発生工学的手法を駆使した機能解析研究を進めている。最近蛋白質分解系の異常で発症する重篤疾病が急増しており、本研究は病気の発症機構解明や治療・予防法の開発に大きく貢献することが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 「分子集合機構の解析」20Sプロテアソームの分子集合を促進する新規なシャペロン分子PAC(Proteasome Assembling Chaperone)1,PAC2,PAC3を発見し、これらの連携作用によって哺乳動物20Sプロテアソーム(α1‐7β1‐7β1‐7α1‐7複合体)が正確に分子集合することを解明した。またPAC1の遺伝子欠損マウスを作製、この分子が個体発生に必須な役割を果たしていることも証明した。「分子多様性の解析」我々はこれまでに抗原提示に関わる“免疫プロテアソーム”や“ハイブリッドプロテアソーム”を発見してきたが、今回、新たに胸腺(皮質上皮細胞)に特異的に発現している“thymoproteasome”を発見し、リンパ球のレパートリ形成における正の選択に関与する可能性を示唆した。「ユビキチン研究」ユビキチンリガーゼは、標的蛋白質の運命を決定する重要酵素であり、我々は常染色体劣性若年性パーキンソン症候群(ARJP)の責任遺伝子Parkinのリガーゼ機能の本態と新しい活性調節機構を見出した。またシャペロン依存性リガーゼCHIPの遺伝子欠損マウスを作製、CHIPが神経病の発症に関わることを証明した。さらに糖鎖識別リガーゼSCF(Fbs)がERAD(小胞体関連分解)における役割以外に分子シャペロン作用のあることも見出した。「オートファジー研究」オートファジーの発生工学的研究を進め、肝臓特異的オートファジー不能マウスが重篤な肝機能不全を、脳特異的オートファジー不能マウスが神経変性疾患を引き起こすことを世界で最初に突き止めた。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 プロテアソームを中心にユビキチンリガーゼ、オートファジーなど細胞内タンパク質分解系について病態との相関を含めその生理的意義を総合的に解析することを目的とし、着実に研究を進展させている。特に、100以上のサブユニットからなる巨大タンパク複合体である20Sプロテアソームのアセンブリーに関与するシャペロンPAC1,2,3の発見と、このシャペロンのアセンブリーにおける役割の研究成果は高く評価できる。一方、非選択的な分解系と考えられてきたオートファジーによる分解系に選択的な経路が存在することを初めて示したことも大きな成果で、今後の発見が期待できる。また、結晶構造解析等において共同研究が効率的に行われており、研究組織の有機的連携も保たれている。研究経費の使用も適切であり、研究成果に結びついている。このまま研究を推進することにより、さらなる研究の展開が期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --