研究課題名:AIDによる抗原刺激依存性抗体遺伝子改編機構の研究

1.研究課題名:

AIDによる抗原刺激依存性抗体遺伝子改編機構の研究

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

本庶 佑(京都大学・大学院医学研究科・寄附講座教員(特任教授))

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 脊椎動物は、一度侵入した病原体に対して免疫記憶を保つ。このため、二度目に感染したときには、病原体を効率よく排除するクラスの抗体を迅速に作り、その抗体は初回の感染時のものに比べて効率よく抗原に結合する。この抗体分子に現れる免疫記憶の分子基盤は抗原刺激を受けたBリンパ球中で誘導される抗体遺伝子の再編、すなわち体細胞突然変異(SHM)ならびにクラススイッチ組換え(CSR)である。1999年、SHMとCSRの両方に必須の酵素activation induced cytidine diaminase(AID)を我々は発見し、これがDNAの切断に関与することを示した。本研究では、AIDがどのような仕組みでSHMとCSRという異なるタイプの遺伝子改編を制御するのかを明らかにする。また、どのようにして抗体遺伝子の切断をAIDが行なうか、その分子機構を明らかにする。さらに我々はAIDが抗体遺伝子以外の遺伝子の切断を行うことにより発癌を誘導することも明らかとしたのでAIDの遺伝子ターゲットの制御機構の研究も行う。この研究の成果により、免疫学の根本課題である抗体の免疫記憶の仕組みが明らかになるとともにウイルス感染等によって発癌が引き起こされるゲノム不安定化の分子機構の解明が可能となり、新たな医学分野の展開が期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

(1)AIDによるDNA切断に際して、ウラシルDNAグリコシラーゼが不必要であることを証明した。これはUNGがDNAの切断ではなく、その後のDNA断端の修復再結合の部分で必要とされることを明らかにしたものである。さらにHIVウイルス複製などに関わるUNGの新規活性がCSRにおいても主要な働きをしていることを証明した。このことは欧米の研究室を中心に強く信じられているDNA脱アミノ仮説に対する決定的な反証となった。
(2)AIDの共役因子を探索するために免疫沈降法によりAIDと共沈するタンパク質を質量分析法により網羅的に解析した。このうち、CSR活性欠失AID変異体とは共沈せず、野生型AIDとのみ共沈する分子(IOF)を同定した。RNAi法により、この因子がCSRに必須の因子であることが明らかとなった。
(3)AIDが脱アミノ化するmRNAの同定のためにUVもしくはホルムアルデヒドでクロスリンク後に免疫沈降法を行ない、現在その候補因子の絞り込みを行っている。
(4)AIDの生化学的な機能を測定するために、小麦胚芽無細胞タンパク質合成系を用いて大量の活性型AIDタンパク質を得ることに成功し、これを用いたAIDの生化学的機能ならびに結合因子の同定を行っている。
(5)AIDは二量体をつくることを明らかにし、その機能的ドメインの決定を行った。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本研究は、Activated induced cytidine diaminase(AID)によって抗体分子が多様性を獲得する機序をRNA編集説の立場から解明する事を目指している。AIDの存在下で抗体遺伝子の改変-クラススイッチ組み替え(CSR)と体細胞突然変異(SHM)-が起きる事は申請者によって発見されたが、これまでにRNA immunoprecipitation Chip assayによってターゲットmRNA候補を15、また免疫沈降法をRNAi法と組み合わせて共役分子候補を1個同定している。また、DNA切断に関わるuracil-N-glycosylase(UNG)について新たな機能を明らかにしており、RNA編集説を支持する結果が蓄積しつつある。今の所solidな結論には至ってはいないが、研究はほぼ予定通りに進展していると見られ、実験系の一層の工夫によって更なる展開を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --