研究課題名:細胞死の分子機構とその生理作用

1.研究課題名:

細胞死の分子機構とその生理作用

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

長田 重一(大阪大学・大学院生命機能研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 細胞がアポトーシスに陥ると細胞や核が凝縮、断片化するとともに染色体DNAが切断される。そして、この死細胞はマクロファージによって速やかに貪食・処理される。申請者らはアポトーシスのシグナル伝達にはカスパーゼと呼ばれるプロテアーゼ、カスパーゼによって活性化されるDnaseが関与していることを示した。そして、アポトーシス時にDNAが切断されないと自然免疫が活性化されることを報告した。さらに、アポトーシス細胞はリン脂質phosphatidylserineを暴露し、これをマクロファージが認識して貪食すること、死細胞が貪食されないと自己免疫疾患を発症することも示した。本研究はこの様な背景をもとに(1)アポトーシスの分子機構と生理作用、特にDNA分解の異常が自然免疫を活性化する分子機構を明らかにする。(2)マクロファージによるアポトーシス細胞貪食の分子機構を明らかにする。これらを目的とした。申請者らのこれまでの結果はアポトーシスの異常、死細胞貪食の異常がさまざまな形で自己免疫疾患などの病気へと導くことを示唆している。本研究はこれをさらに発展させるものであり、その成果は基礎研究として細胞死の分子機構を明らかにするだけでなく、自己免疫疾患などのヒトの病気の原因解明にも貢献するであろう。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 アポトーシス細胞や赤血球核を貪食したマクロファージがそのDNAを分解できないとIFN・の産生を介してマウスに致死的に作用することを示した。細菌やウイルスの感染時にIFN・遺伝子が活性化されるが、この際、Toll-like Receptor(TLR)システムが細菌やウイルスコンポーネントからのシグナルを伝達する。一方、TLRの欠損はDnase2ノックアウトマウスの致死性に影響を与えず、このシステムは未分解の動物細胞DNAによるIFN・遺伝子の活性化には関与していないと結論した。一方、マクロファージは赤芽球から脱核した核も貪食するが、この際、核を覆う細胞膜に暴露されたphosphatidylserineを認識することを明らかにした。また、乳腺の退縮において、乳脂肪球は乳腺上皮細胞に吸収されるがその際も、乳脂肪球の外膜に暴露されたphosphatidylserineが関与している。ところで、マクロファージがアポトーシス細胞を貪食する際、マクロファージの細胞骨格系が重要な役割を演ずる。実際、アクチンなどの骨格系を制御しているRhoファミリーに属する低分子量G-蛋白質が、アポトーシス細胞の貪食をpositiveあるいはnegativeに制御していることが示された。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 アポトーシスの研究領域を切り開いてきた研究代表者を中心として、細胞死の分子機構と生理作用についての踏み込んだ研究が、当初の予定通り精力的に着実に進行している。その中で、細胞死と自然免疫活性化機構とのいくつかの興味深い関連性をすでに明らかにしており、細胞死におけるDNA分解の意義と生理作用についての体系的な理解をめざして研究が進展している。またマクロファージによるアポトーシス細胞の貪食機構におけるRhoファミリーG蛋白質の役割や、そのphosphatidylserineを介した細胞認識機構と赤芽球脱落核あるいは乳腺脂肪球の貪食機構における共通性についても報告がなされている。今後、これらの新しい発見を手がかりとした更なる解析により、細胞死機構の包括的かつ詳細な解明が大いに期待できる。これらの研究成果は既に数編の論文として一流誌に掲載されており、本研究の瞠目すべき成果を証明している。総じて、本研究は、今後も非常に質の高い研究の進展が見込まれる。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --