研究課題名:非ニュートン流体熱弾性流体潤滑理論の構築

1.研究課題名:

非ニュートン流体熱弾性流体潤滑理論の構築

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

兼田  楨宏(九州工業大学工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究の目的は、表面粗さ、変動荷重、往復・揺動運動などに起因する油膜の動的応答、それに対応する油膜及び接触物体の温度並びにトラクション応答を実験的に把握し、系のエネルギバランスを考慮して組み立てられた非ニュートン流体熱弾性流体潤滑解析結果と比較検討することによって構築された潤滑油挙動モデルに基づいて熱弾性流体潤滑理論を確立し、集中接触する機械要素の機能・性能・信頼性の飛躍的向上に資することである。
 研究成果は、学術的には、高圧・高せん断速度下の流体のレオロジー特性の解明を通して、現等温EHL理論では仮説の域を出ない未解決EHL問題の解明や、実用機器の損傷問題に顕著な影響を与えるEHLと境界潤滑の限界問題へも大きいインパクトを与え新しい学術分野を創出すると考えられる。また、工学的には、EHL領域で作動する多くの機械要素の設計に新指針を与えるとともに、今後の潤滑油ならびに新材料の開発や新機構の設計に対して理論的に対応することを可能にする。すなわち、本研究は、従来の理論を新たな視点から格段に発展さすものであり、学術的にも技術的にもこの分野の最先端に位置するといえ、技術立国日本の「ものづくり」を根底から支え、諸外国の追従を許さない機器の開発に直接貢献すると言える。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 既存並びに購入実験設備の改良及びキャリブレーション、新視点からの数値解析並びに実験解析を実施して、研究計画達成のための基盤を確立した。すなわち、膜厚は3ナノメートル以下まで等温EHL解析結果に従って変化するものの、摩擦力は混合潤滑域、高圧粘度弾性域、高圧粘度剛体域、等粘度剛体域に分類されること、トラクション値の表面粗さ、油量不足依存性を実験的に明らかにし、従来の油膜厚さ及びトラクション計測結果解釈の再考が必要であることなどを示した。また、熱弾性流体潤滑解析法を開発し、表面粗さが油膜厚さ・圧力・温度分布、トラクションに与える影響を検討して、最適流体モデルが存在することを指摘した。さらに、表面粗さが存在する場合には、油膜温度並びに粗さ突起の変形状態が流体モデルの選択に支配されることを見出し、本研究計画の正しさを裏付けるとともに、本研究達成のための基盤を確立した。その他、油膜厚さ、トラクション特性に及ぼす圧縮発熱の重要性、転動接触疲労に及ぼす潤滑油特性並びに接触物体の熱伝導率の影響を明確にするとともに、表面粗さと表面損傷発生機構とを関連付けた。また、機械要素が衝撃あるいは衝撃繰返し荷重を受けた場合の油膜応答の詳細観察と圧力応答の数値解析、それら衝撃荷重の転がり滑り運動に与える影響を究明した。さらに、往復運動下における油膜及びトラクション特性を実験的に把握し、その設計への適用方法を提案した。また、これらの成果に立脚して、デイーゼル機関で問題となるスーツ摩耗の機構並びに往復運動用シールの摩擦増大機構を解明した。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 理論の構築と解析プログラムの作成およびシミュレーションによる非ニュートン流体熱弾性流体潤滑解析は順調に推移しており、従来の等温理論に基礎をおいた機械要素の設計指針の変更をせまる学術的に価値のある知見の獲得と公表が順調に行われていると判断できる。ただし、流体モデルおよび計算スキームの選択の妥当性や数値計算精度など、いくつかの検証すべき点については今後の進展が強く望まれる。また、実験研究については、現在予備実験段階にある計測法に対しては研究推進上の問題は見受けられないものの、ラマンスペクトロスコピーを利用した潤滑面の圧力計測に関する当初計画を見直したことに端を発する研究の遅れは否めない。工学の見地からは具体的な実用的設計へ結び付く知見の導出が重要であり、理論研究成果の裏付けや解釈に必要となる実験研究成果に向けた一層の取り組みが期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --