研究課題名:レーザープラズマ軟X線光源を用いた超高分解能多元物質顕微鏡の開発

1.研究課題名:

レーザープラズマ軟X線光源を用いた超高分解能多元物質顕微鏡の開発

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

山本 正樹(東北大学多元物質科学研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究では、有機・無機から成る多元物質や磁性材料、生体試料など全ての物質に対して、分解能50ナノメートルで元素コントラスト画像が得られる次世代の光学顕微鏡システムをレーザープラズマパルス光源で実現する。使う光は、波長30ナノメートルから3ナノメートルの軟X線で、空気にも吸収される安全な光だが、全ての物質に適度に入り込む透過力を持ち、水素、酸素、炭素、窒素などの物質の構成元素をはっきり見分ける機能性を持つ。顕微鏡は反射型で、超研磨曲面基板に特殊な多層膜ミラーを形成する。但し、ミラーの曲面形状の精度は0.1ナノメートルが必要である。形状の誤差を精密計測する新技術を開発し、計測した誤差を、新発見の原理による補正技術で修正して目標精度を達成する。
 軟X線は短波長で高い光子エネルギーを持ち、内殻電子を励起できるから、50ナノメートルの空間分解能で元素コントラスト像を得ることが期待されている。また、伝導電子でスクリーニングされないので、金属、半導体、誘電体などの物質の種類を問わず計測できるし、電子と違って電場や磁場などの外乱に影響されない。したがって、軟X線利用技術はナノテクノロジーの研究動向に合致していて学界のみならず産業界にも多彩な応用が見込まれる。本研究の、個々の結像鏡の波面精度を0.1ナノメートルに補正する技術は、波長13.4ナノメートルのEUV光を利用した次世代超LSI製造用のEUVリソグラフィー(EUVL)の実用化にも大きく貢献すると期待できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究では、軟X線の結像分解能を達成する要となる“軟X線用の超精密結像多層膜ミラー”を実用化し、開発目標の分解能50ナノメートルを達成する。実用化には、“4つの基本技術”、1.ミラーの製作-2.反射率評価-3.波面誤差計測-4.誤差補正の各技術を新規開発し、軟X線多層膜“光工学”の基礎として確立する必要がある。
 研究は、1.イオンビームスパッタ特殊多層膜成膜装置の開発による結像ミラー多層膜の製作技術開発をほぼ完了し、2.曲面ミラー用の高精度軟X線分光反射率計測装置の開発による結像ミラー多層膜の評価技術、3.軟X線波面誤差計測干渉計の開発による結像ミラーの波面誤差の精密干渉計測技術、4.多層膜表面ミリング波面補正装置の開発による波面誤差の精密補正技術開発を並行して進めている。また、5.多元物質顕微鏡本体の製作に着手した。
 主たる研究の成果は、1.の特殊多層膜のナノメートル周期膜厚とその分布の絶対制御精度プラスマイナス0.04ナノメートルの達成にある。付随する要素技術の、pm感度の成膜モニターは民間に技術移転した。分布制御技術は、成膜による非球面の創製に応用できる。クリーンな実験室光源の開発では、YAGレーザー集光点に生成したプラズマ光源からの飛散微粒子デブリを除去する高速回転速度フィルターを開発し、秒速250メートル以下の粒子を全て除去して除去率90パーセントを達成した。回転速度(阻止速度)を変えて計測した飛行粒子速度分布の質量ピークは秒速25メートルであった。このフィルターは、パルスレーザー成膜(PLD)の高品質化に使用できる。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 空間分解能50ナノメートルのSchwarzschild顕微鏡の開発という目標に向けて、研究者相互の有機的連携が保たれ、必要な要素技術の開発が着実に進められており、現段階で問題は見受けられない。顕微鏡本体の製作はほぼ完了しており、軟X線波面誤差計測干渉計と波面誤差補正装置の開発に順調に移行している。波面誤差補正装置の開発においては、ミリングイオン銃部の加工速度および時間安定性に関する難点を克服するために、収束ビーム走査方式からデジタルミリング方式に転換するなど開発における問題に随時対処しており、期待された成果を十分にあげつつある。装置開発が着実に進展している点、期待された成果を挙げている点、今後の発展が期待できる点から、本研究課題は現行のまま推進すればよいと判断した。最終年度に向けて、開発した顕微鏡装置を用いることで得られる新たな成果や装置の要素開発の新技術に関する学術論文がでることを期待したい。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --