研究課題名:先端ナノ材料学による原子炉鉄鋼材料の脆化・劣化機構の解明と制御・予測

1.研究課題名:

先端ナノ材料学による原子炉鉄鋼材料の脆化・劣化機構の解明と制御・予測

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

長谷川 雅幸(東北大学・金属材料研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 我が国の電力の30パーセント以上が原子力発電に依っている。現在、約30年前に設置された初期の原子炉は当初の予定稼働期間(約30~40年)に達しようとしており、いわゆる高経年化時代を迎えつつある。これら原子炉はさらに約30年の稼働が期待されている。それら高経年化原子炉の安全性を最新のナノ材料学の立場から、より確実にすることは非常に大切である。
 本研究では、原子炉の主要鉄鋼材料、例えば圧力容器(RPV)鋼の照射脆化の主因であるCu富裕析出物、マトリックス欠陥や粒界偏析に関して、最先端の陽電子消滅法と3次元アトムプローブ法を組み合わせ、実機監視試験片や材料試験炉で加速照射したRPVモデル合金や模擬材をナノ材料学的に調べるとともに、それらの長期間照射下での発達を明らかにしようとする。またこれらのナノ材料学実験的知見、機械的性質に与える効果、熱的安定性、さらには対応する計算機シミュレーションを行うことによい長期間照射による鉄鋼材料の脆化・劣化の解明、予測・制御につなげることを目的とする。
 上にも述べたように、最先端の実験および計算機シミュレーションを駆使し、現在稼働中の商用原子炉、特に高経年化炉の主要構成鉄鋼材料の劣化・脆化をナノ材料化学的機構論の立場から明らかにするとともに予測・制御の方策の提案を行おうとすることは、原子力発電の安全性を願う国民の期待に答えると言う大きな意義がある。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 従来の我々のRPV鋼モデル合金中のナノCu富裕析出物(CRP)の陽電子量子ドット現象研究成果が契機となって、大学や公的研究機関としては日米で初めて、実機監視試験片を入手できるようになり、材料試験炉における模擬材の加速照射試料だけではなく、商用原子炉のRPV鋼で何が起きているかを明らかにする段階へと研究を発展させている。また最新の局部電極高分解能3次元アトムプローブを導入することによって、従来の装置に比べ、約400倍の検出効率でナノCRPの定量解析を行えるようにするとともに、陽電子消滅、電子顕微鏡観察、機械的性質、さらにはそれらに対応する計算機シミュレーション法を相補的に組み合わせて用いることにより、照射脆化・劣化に関し、
1)材料試験炉に比べて照射速度が4桁低いCalder-Hall型炉のRPV鋼中でのCRP形成促進効果、
2)欧州PWR型炉(ベルギー:DOEL炉)監視試験片中の(a)CRP形成のCu濃度依存性、照射量依存性、(b)結晶粒界における特徴的なPやSiなどの縞状およびCuの点状偏析、
3)PHWR(D2O)型炉(アルゼンチン:CAN-1炉)の監視試験片における熱中性子の効果、など重要知見を明らかにした。さらに(サブ)ナノCRPを検出するための新たな陽電子消滅解析法(2次元角相関Smearing、寿命-運動量相関、低速陽電子ビームを用いた陽電子Dynamicsなど)を開発した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 脆性・劣化を引き起こす照射誘起欠陥の原子レベルからの解析において強力なツールになりうる局部電極型三次元アトムプローブ検出器システムの設置が完了し、データ取得に向けた予備実験が行われている。この新しく導入されたアトムプローブは従来のものに比べ視野範囲が格段に大きく、研究代表者らがこれまでに実施してきた陽電子消滅測定の結果を統合することにより照射によって誘起される欠陥に対する微視的レベルの現象解明が進むことが期待される。研究は当初の計画に沿って順調に推移しているが、今後は、これらの微視的レベルの現象解明と原子炉鉄鋼材料の脆化・劣化の関係を明らかにし、脆化予測・制御に結びつく知見の獲得に向けた研究の進展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --