研究課題名:水素―表面反応基礎過程;スピン効果、反応ダイナミックス、及び星間水素分子の起源

1.研究課題名:

水素―表面反応基礎過程;スピン効果、反応ダイナミックス、及び星間水素分子の起源

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

並木 章(九州工業大学・工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究の目的は、水素原子と表面の反応、即ち、原子の表面吸着から分子脱離に至るまでの基礎過程を、表面科学的な手法を用いて解明することである。SiとHの結合は共有結合であり、表面でのSi-H結合の生成においてはH及びSi原子の電子スピン状態は異なっていなければならない。他方、水氷(H2O)表面では、水素の吸着様式は物理吸着的であり、吸着水素の結合エネルギーは小さい。したがって水素のH2O表面での反応はSi表面と大きく異なるであろう。水素が吸着した表面にさらに余剰の水素が供給されると吸着水素系の熱力学的不安定性により吸着水素は再結合して分子として脱離する。この時の脱離ダイナミックスも吸着水素の結合様式を反映すると期待される。この文脈の中で、本研究では以下の三つの課題を行う。 (1).水素原子の表面吸着過程におけるスピン効果、(2).水素引き抜き反応分子の運動エネルギー状態、(3).星間水素分子の起源。
 水素-表面反応の基礎過程の研究は工学及び宇宙科学の観点からして特に意義がある。燃料電池は電極表面での水素の解離吸脱着反応が根幹であり、また、半導体プラズマプロセスにおいては作成材料の良否は水素原子の表面反応により決定されている。他方、星の誕生につながる星間水素分子の生成を極低温氷表面での水素反応として実験室的に解明する事は壮大な宇宙表面化学への第一歩となる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 平成17年度からスタートしたこの研究プロジェクトは、18年度に入り実験装置と研究体制が整備されつつある。研究申請段階では2つの実験装置で3つの課題を行う予定であったが、研究の進展具合と研究体制を鑑み、各課題ごとに一台ずつ装置を製作した。各装置には新規採用の助手や博士研究員が一人づつ配置され、若手を核とした研究体制が機能し始めた。スピン効果実験装置は6重極電磁石を用いたスピン偏極ビーム発生装置と、電磁石と極低温超高真空表面反応装置を組み合わせたシステムが揃い始め、それぞれの装置の基礎特性を調べ始めたところである。反応ダイナミックス装置は現有のTOF装置を活用すべく水素-表面反応装置を製作した。約60センチメートルの飛行距離では脱離分子への四重極質量分析計(QMS)の感度は充分でなく、その対策を練っている。星間水素分子の起源を探る実験装置はほぼ完成した。現在、Ru表面への水氷薄膜の形成とその赤外吸収スペクトル解析を開始している。また、マイクロ波プラズマ水素源と表面反応チャンバーをドッキングし、Ru表面での吸着水素の引き抜き反応による水素分子脱離をQMSで捕まえるまでになっている。これらの装置製作に先立ち、従来の装置を用いた水素-表面反応の基礎過程に関して一定の研究成果をあげた。シリコン表面での吸着D原子のHによる引き抜き反応で生ずるHDやD2分子の角度分布や時間応答に関して調べた。又、2水素化シリコン表面からの吸着熱脱離分子の速度分布を測定した。これらの成果を論文として発表した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 水素と表面の反応における基礎過程として取り上げた研究テーマ、(1)水素原子の表面吸着過程におけるスピン効果、(2)水素引き抜き反応分子の運動エネルギー状態、(3)星間水素分子の起源、それぞれについて、研究の遂行に必要な測定装置を、従来の備品と購入備品を組み合わせ、着実かつ順調に構築している。本研究に関わる論文の出版も順調である。よって、現行のまま推進すればよいと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --