研究課題名:精度保証付き数値計算学の確立

1.研究課題名:

精度保証付き数値計算学の確立

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

大石 進一(早稲田大学・理工学術院・理工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

  Von Neumannが計算機を発案した大きな目標は非線形偏微分方程式を数値計算により数学的に厳密な意味で解くことであった。皮肉なことに、数値計算の誤差を厳密に把握することが理論的及び技術的に難しいという理由で、現代に至るまで数値計算とは誤差の把握を行わないものであるというのが主流の考え方になっている。しかし、学問的に見れば、(数学的に厳密な意味での)必要な精度の解を得るのに必要な計算資源(計算時間とメモリ量など)を明らかにするのが数値計算学であるべきことは明らかであり、現状では学問の体をなしていない。ここでは、まず、数値計算の基礎となる線形系について、従来の近似解を求める計算の数倍程度の計算時間で精度保証付きに数値解を求める、本来的な意味での数値計算学を確立する。具体的には、(1)条件数(係数などの変動が解の変動に何倍に拡大されるかの倍率)が非常に高い問題について、本研究者が開発した誤差無し内積計算法を用いた効率的な精度保証付き数値計算法を確立する、(2)共役勾配法などの反復解法系を利用した超大規模線形系(100万次元以上の連立系)の精度保証付き数値計算を確立する、(3)その応用として、Von Neumannの夢であった流体系非線形偏微分方程式の境界値問題等の解の存在と唯一性について、数値計算結果を基に証明する「計算機援用証明」法を確立し、その夢を実現する。
 精度保証付き数値計算学が確立されると理工学では数値計算を一つのベースとしているので、理工学の各方面で革命的な進展が得られる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 研究は研究計画に沿って順調に進められた。具体的には次のような成果を得た。
1.大規模スパース線形系に対する精度保証法の検討スパースで大規模な線形連立一次方程式の反復解法で得られた数値解をBiCGStab法やGMRES法などの反復解法を利用して精度保証する理論と技術を開発した。この方法が大きな並列性をもつことを示し、8月に導入されたクラスター計算機を利用して高速化が可能なことを示した。また、ダイレクトスパース法に基づく対称正値系の精度保証法の原理を発見し、メモリ共有型並列計算機を導入して、その有効性を示した。
2.誤差無し内積計算法の発展と応用浮動動小数点数を要素とするベクトルの内積を特別のハードウエアや多倍長ライブラリなどのソフトウエアを用意することなく、非常に効率的かつ高精度に内積を計算することができる方法を構築した。
3.流体系非線形偏微分方程式に対する解の数値的検証法の検討2次元Driven-Cavity問題について、有限要素法とその構成的誤差評価を用いた解の数値的検証を行った。また、空間2次元熱対流問題の解の分岐点のスペクトル法をもとにした数値的存在検証方式を定式化し、数値的検証を行った。さらに、2次元重調和方程式の有限要素解に対するアプリオリ誤差評価定数の精度保証付き計算法を与えた。
4.カオス系の計算機援用証明法の検討非線形常微分方程式の境界値問題の精度保証付き数値計算法について様々な角度から検討を行い、効率的な手法開発への方向性を得た。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 (1)大規模スパース線形系に対する精度保証の検討と、(2)誤差無し内積計算法の発展と応用については順調に進捗しており、優れた成果が得られつつある。特に、高精度で保証付きの数値計算が高速に実現可能になり、これまで丸め誤差に弱く使うべきでないとされていたアルゴリズムの再評価の可能性が出てきたことは特筆すべきである。一方、(3)流体系非線形偏微分方程式に対する解の数値的検証法の検討については、いくつかの問題に関して成果が得られつつあるものの、予定に対して進捗が遅れている部分がある。また、(4)カオス系の計算機援用証明法の検討については、調査などの課題検討を中心としており、研究経過としては予定を下回っているように見える。当初計画として初年度から大きな課題が挙げられているため、(3)(4)のように一部進捗が遅れているものもあるが、総合的に見れば、研究代表者達のこれまでの研究を大幅に発展させており、着実に進展していると思われる。特に、この特別推進研究により国内の何人かの研究者の間の密接な研究連携ができたことは大きな成果である。以上より、現行のまま推進すればよいと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --