研究課題名:革新的不斉触媒の最適化と新たな展開

1.研究課題名:

革新的不斉触媒の最適化と新たな展開

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

柴崎 正勝(東京大学大学院薬学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 医薬あるいはその候補化合物を、不必要な廃棄物をできるだけ生成することなくしかもグローバルな規模で環境調和性高く供給する方法の開発が、21世紀の有機合成化学における一つの最重要課題であると考えている。ごく微量のキラル触媒の制御により大量の目的物が化学的かつ光学的に純粋な形で得られる触媒的不斉合成は、この要請に対する一つの解決の方向を与えている。我々の人工不斉触媒は、複数の基質を選択的に認識、活性化(多点認識)する複数の機能部位を単一分子中に持ち、従来にない温和な反応条件で不純物を生成することなく、目的の化合物のみを選択的に生成する。この新しい概念をさらに発展させて、より理想に近い化学反応の範疇を拡張することにより、本プロジェクトの課題解決に向けた進展ができるものと考えている。具体的には、新規な機能を組み込んだ多点認識不斉触媒の創製と高活性化、これらを用いた新規素反応の開発、一挙に分子の複雑性を飛躍させる触媒的不斉反応の開発、独自に開発した合成法を用いた医薬およびそのリード化合物の革新的効率合成への展開に取り組んでいる。新しい概念で創製された人工不斉触媒を駆使することにより、既存の方法では成し得なかった効率的な合成が実現できるものと考えられる。標的とする薬理活性は、抗癌作用、脳機能改善作用、抗頻尿作用、糖尿病時の神経疾患改善作用、抗血栓作用、抗ウイルス作用である。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 特に前回の中間評価以降の進展をまとめると、以下のとおりである。糖を母核とする配位子とイットリウムイソプロポキシドの1:2混合比から調製される触媒を用いて、現在報告されている中で最も基質一般性および触媒回転数の高いメソアジリジンのTMSN3による開環反応を開発した。生成物は医薬やキラル配位子のビルディングブロックとして有用性の高い光学活性1,2-ジアミンに短工程で導けた。本反応を鍵工程として、抗インフルエンザ薬タミフルの世界初の完全人工不斉合成を達成した。今後本研究を発展させることによって、タミフルの工業的合成へと展開できるようなルート開発を行っていく予定である。また、ケトンやケトイミンに対するシアノ化反応や・.・-不飽和エステル等価体に対するシアノ基の共役付加反応、アジリジンの開環反応に対して有効な、糖由来配位子の希土類金属錯体のX線結晶構造を解明した。本触媒がモジュールの自己集合によって生成する高次構造を有する金属錯体であり、各モジュールの構造やキラリティーは同一であってもその集合状態の相違によってエナンチオ選択性が劇的に逆転することをケトイミンに対する不斉Strecker反応において明らかとした。希土類-リチウム複合金属錯体において、二種類の異なる配位子を混合することで動的に錯体構造を制御し、異種配位子混合型触媒を系中で発生させる手法を開発した。これにより、tert-ニトロアルドール体の速度論的分割に成功した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 構造が柔軟で制御が困難なランタニド錯体を触媒とし、キラル配位子を含む多点相互作用の概念を不斉合成に適用することに成功することも実現され、薬学への貢献も大きい。さらに反応機構に関する研究も進行中で、反応中間体の構造を決定して、不斉発現の機構を提案している。ランタニド錯体を用いた不斉合成研究分野における研究代表者の研究成果は傑出しており、特別推進研究として現行のまま推進すればよいと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --