研究課題名:不斉自己増殖反応の開拓および超高感度不斉認識・不斉の起源解明への応用

1.研究課題名:

不斉自己増殖反応の開拓および超高感度不斉認識・不斉の起源解明への応用

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

硤合 憲三(東京理科大学理学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 生体関連化合物の多くは,L-アミノ酸のように可能な光学異性体のうち一方のみが存在することが多い。これらの不斉の起源と増幅過程の解明は,長年多くの知的好奇心を集めてきた未解決の課題のひとつである。本研究では,従来の不斉触媒とは全く異なる原理に基づく不斉自己増殖反応,すなわち生成物自身が自己を生成する不斉自己触媒となり自己増殖しながらその不斉を著しく増幅させる反応を開拓する。すなわち,超低鏡像体過剰率の不斉自己触媒が不斉を増幅させつつ自己増殖し,ほぼ一方のみの光学異性体に至る効率的な不斉自己増殖反応を実現させる。一方,有機化合物の不斉の起源としてこれまでに提唱されている円偏光や不斉無機結晶等の物理的および化学的な不斉要因が有機化合物に誘起する不斉は極微小に過ぎず,それが高い鏡像体過剰率に至る過程は長年の謎とされている。本研究では,物理的化学的な不斉の起源またはこれにより生じる低い鏡像体過剰率の有機化合物存在下で不斉自己増殖反応を行い,引き続く不斉自己増幅により,不斉の起源と立体相関をもつ高い鏡像体過剰率の光学異性体に至る不斉自己増殖反応を実現させる。これらに関連して従来は不斉識別が困難とされて来た不斉有機化合物および不斉無機結晶などの不斉認識を不斉自己増殖反応を用いて行うことも目的とする。
 本研究は,高い鏡像体過剰率に至る不斉自己増殖反応を確立し,有機化合物の不斉の起源と増幅過程の解明に寄与できるという意義をもつものである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 きわめて低鏡像体過剰率のピリミジルアルカノールが,ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛との反応で不斉自己増殖し,高鏡像体過剰率に至る現象を見出した。さらに不斉源を加えず統計的揺らぎにより生じる不斉を不斉自己増殖反応で向上させることに成功し,絶対不斉合成の必要条件を具現化した。円偏光,不斉無機および不斉有機結晶が不斉の起源となり,高い鏡像体過剰率のキラル有機化合物を与える不斉自己触媒反応を実現させた。N-ベンゾイルグリシンなどのアキラルな有機化合物が形成するキラルな結晶を不斉起源とする不斉自己増殖反応を行った。円偏光をラセミ体ピリミジルアルカノールへ直接照射後に不斉自己触媒を行うと,円偏光の向きと対応した絶対配置をもつピリミジルアルカノールが高い鏡像体過剰率で生成することを確立し,円偏光の不斉と高鏡像体過剰率の有機化合物の直接的関連付けに初めて成功した。さらにビス(ピリミジルアルカノール)生成反応で分子内遠隔不斉誘起が発現する現象を見出した。また,臭素酸ナトリウム等の不斉無機結晶を用いる不斉自己触媒反応を行った。また不斉自己触媒反応を用いて,従来不斉認識が困難とされてきた不斉第4級飽和炭化水素,同位体不斉化合物等の超高感度不斉認識を行った。さらに,アキラル触媒によるキラルアミノアルコール触媒のエナンチオ選択性の逆転現象を発見した。また,チアヘリセンや有機無機ハイブリッド型キラル触媒の有用性を不斉自己触媒反応により実証した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 わずかな不斉のゆらぎを増殖させて圧倒的な不斉を実現する不斉自己増殖反応という極めて独創的な反応を、円偏光・キラル無機結晶をはじめとしてアキラル分子の統計的不斉ゆらぎなど、多様な不斉を起源として達成できることを見事に示しており、研究目的に沿って順調に研究が進行しているように思われる。不斉触媒反応は創薬などの分野でも極めて重要であり、多くの研究者が関心を寄せる問題に対して興味深い結果を出している。有機合成化学の範疇を越え、科学全般においても広く評価される成果であり、現行のまま推進すればよいと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --