研究課題名:濃厚ポリマーブラシの科学と技術

1.研究課題名:

濃厚ポリマーブラシの科学と技術

2.研究期間:

平成17年度~平成20年度

3.研究代表者:

福田 猛(京都大学・化学研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 固体表面に密にグラフトされた高分子鎖は、分子鎖間の立体障害を避けるべく表面から垂直方向に延伸された分子集合系「ポリマーブラシ」を形成する。ポリマーブラシの構造・物性はグラフト密度に強く依存すると考えられるが、グラフト鎖の表面占有率が約10パーセントから数10パーセントに及ぶ密度領域(濃厚ポリマーブラシ)は、最近まで全く未知・未開拓の領域であった。当研究グループは、リビングラジカル重合(LRP)の利用により、長さの揃ったグラフト鎖からなる濃厚ポリマーブラシの合成に世界に先駆けて成功するとともに、濃厚ブラシ中の柔軟な高分子鎖が、良溶媒中で伸び切り鎖長に匹敵するほど高度に伸長配向するという驚くべき事実を発見した。本研究課題は、濃厚ポリマーブラシという高分子の結晶、液晶に次ぐ、しかしこれらとは本質を異にする新しい自発配向組織が、様々な基礎および応用科学分野の新しい局面を拓く「シーズ」になりうるという認識の下で、これを(1)LRPに基づく合成化学、(2)構造・物性科学および(3)機能開発・応用科学という互いにフェーズを異にする3つの切り口から包括的かつ系統的に研究し、濃厚ポリマーブラシの科学と技術を開拓することを目的とする。これにより、高分子科学、界面科学、膜科学、コロイド科学、無機-有機複合材料・生医学材料・電気電子材料科学など様々な分野に多大な波及効果が及ぶことが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 合成化学的研究に関しては、ゲルマニウムのヨウ化物による新しいリビングラジカル重合(LRP)を開発しつつある。この触媒系は生体に及ぼす毒性が低い点で、生医学材料など独自の応用分野をもつことが期待される。高圧下の実験により、100万を超える高分子量で分布の狭いポリマーのLRP合成に先駆的成功を収めつつある。高圧LRPは、また、超高密度・超高分子量ブラシ合成への展望を開く。物性的には、濃厚ブラシが大きな圧縮抵抗を示す一方で、高荷重下でも極度に低い摩擦係数を与え、溶媒中でも乾燥溶融状態でも(一定以上の大きさの分子をブラシ層に取り込まない)サイズ排除効果を示し、さらに、タンパクなど生体関連物質の吸着を抑制するなど興味深い現象を数多く見出し、学術的体系化が待たれる。これらの結果は、人工関節や生体適合性材料などへの応用に繋がることが期待される。また、濃厚ブラシ付与微粒子が、等屈折率・等比重混合溶媒中で、コロイド結晶を形成することを発見した。この現象は従来、一方では多枝の星型高分子の研究、他方ではハード系(剛体球系)およびソフト系(電解質系)コロイド結晶の研究から予測されてはいたが、実験的証明はこれがはじめてであり、準ソフト系コロイド結晶として、この分野の体系化に重要な意義をもつ。さらに、有機高分子の表面に濃厚ブラシを付与する技術を開発し、この分野に新たな材料学的広がりを加えた。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 濃厚ポリマーブラシは材料として興味深い物性を持っており、1.6ナノ平方メートル毎本の密度を持つ究極の濃厚ポリマーブラシの合成法の確立を目指している本研究は高分子材料としても有機化学的見地からも評価できる。リビングラジカル重合法に基づく濃厚ポリマーブラシの合成化学的研究、濃厚ポリマーブラシの構造・物性の研究、濃厚ポリマーブラシの機能開発的研究、それぞれについて研究計画に沿った形で概ね順調に進展していると判断した。ただし、新しい材料の基礎研究であるのか、もしくは、材料の応用を指向した研究であるのかが曖昧になっている点が指摘された。今後、どちらかに焦点を絞り、究極の濃厚ポリマーブラシの合成法の達成とその基礎物性の解明またはニーズにあった応用展開を期待する。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --