研究課題名:高周期14族元素の特性を生かした高次制御物質の創製と機能開発

1.研究課題名:

高周期14族元素の特性を生かした高次制御物質の創製と機能開発

2.研究期間:

平成17年度~平成20年度

3.研究代表者:

吉良 満夫(東北大学・大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 高周期14族元素の化学、特にその多重結合の化学は近年大きく進展した。現在では、これらの新しい形式の分子の示す特異な性質を理解し、その電子状態、構造と反応性を応用して、従来の有機化合物では実現できないような機能を発現しようとする方向性をもった研究が望まれる。本研究の目的は、ケイ素など高周期14族元素が次世代の機能性材料を担う中心元素として重要であることに鑑みて、その基礎化学をさらに高度なものとして発展させ、次世代機能物質探索の端緒を拓くことである。まず、新しい結合と構造様式をもつ高周期14族元素化合物を創製し、その結合・構造と反応性を、対応する炭素化合物のものと比較しつつ解明することによって、これまで第2周期元素化合物の構造と反応を基礎に構築された典型元素の構造論と反応論を一新し、高周期典型元素を包含する一般性の高い典型元素構造論・反応論へとパラダイムシフトさせることができると考えている。また、新しい構造体は新しい電子状態や物性をもつはずであり、機能を発現するはずである。本研究で合成した新しい高周期14族元素構造体のもつ特異な電子状態・物性、あるいは、広く高周期14族元素のもつ特性を利用して、機能性分子を創製し、その物性、触媒作用などを明らかにすることによって、将来的に高周期14族元素系機能材料を有機系機能材料と相補的に用いるための基礎を形成できるものと期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 研究計画調書に記載した計画に従って研究を遂行し、現在までに以下のような成果を挙げた。
(1)先に研究代表者らが開発した安定ジアルキルシリレンを用いて、一連のシラン-カルコーゲン二重結合化合物、特異なケイ素-炭素二重結合化合物としてのシラケテンイミン、ビス(シリレン)パラジウム錯体、などの新しい化合物を合成し、その物性・反応性の解明に成功した。安定ジアルキルシリレンは新しいケイ素不飽和電子系を構築するための一般性の高い、有用な反応試剤になることが示された。また、新しく構築した一連の化合物の構造解析によって、これまで未解明な高周期14族元素不飽和結合や構造の特徴が明らかにされた。
(2)先に研究代表者らが開発した安定ジシレンや安定ジゲルメンの化学を発展させた。これらを配位子とする遷移金属錯体の構造と反応の研究の途上に、14電子(ジゲルメン)パラジウム錯体の遊離ジシレンとの間の配位子交換反応を発見した。また、トリシクロ[3.1.0.02,4]ヘキサシランのトリシクロ[2.2.0.02,5]ヘキサシランへの特異な光化学的異性化反応を見いだした。
(3)ケイ素-酸素およびケイ素-炭素単結合が比較的強固で、長鎖シラ(オキサ)アルカン鎖を合成できる性質を応用して、シラ(オキサ)アルカン鎖を3本の架橋鎖とし、フェニレン環を回転子とする分子ローターを初めて構築し、このものが結晶中でもフェニレン基の回転の容易な初めての分子ローターであることを示した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 研究代表者が開発した安定な環状ジアルキルシリレン、ジシレンやジゲルメンを用いて、ケイ素やゲルマニウムを含む新しい物質群の創製や遷移金属錯体の合成に成功し、さらには特異な異性化反応を見い出すなど、着実に研究成果があがっている。さらには、シラ(オキサ)アルカン鎖を3本の架橋鎖とし、フェニレン環を回転子とする分子ロータを構築し、フェニレン基の回転が結晶中でも容易に起こることを見い出した。このような炭素化合物では実現困難な新しい結合・構造と電子状態を持つ物質群をケイ素やゲルマニウムを用いて創出したことは、高度な高周期典型元素化学を構築したと言えるだけでなく、新しい触媒開発や機能材料開発への応用も期待できる。また、特別推進研究で備えた機器がこれらの研究には欠かせない設備であることも確認された。当初の研究計画調書に沿った形で研究計画が順調に進んでおり、現行のまま推進すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --