宇宙高温プラズマの観測的研究と偏光分光型超高精度X線CCD素子の開発研究
平成16年度~平成20年度
常深 博(大阪大学大学院理学研究科・教授)
高温プラズマは宇宙における物質の基本的存在形態の一つであり、その観測的研究から期待される物理量は、宇宙物理の基本とも言うべき量である。宇宙には高温プラズマ以外に、高エネルギー宇宙線に代表される熱分布から外れる、いわゆる非熱分布をした成分も広く知られている。熱分布は、その温度で決まる範囲にあるが、一般的に非熱成分はエネルギースペクトルにおいて高エネルギー側に延びている。熱分布と非熱分布とを分離する有力な手段は、10keV(キロ電子ボルト)を越える高エネルギー領域での観測にある。
超新星爆発やそれに伴って生じる磁場を含んだ衝撃波面における加速により、非熱粒子が発生すると考えられている。これらの非熱成分は、スペクトルではべき関数型であるため、高エネルギー側まで延びているが、光子密度としては低エネルギー側が強い。従って、熱成分と非熱成分とが分離し始めるエネルギー領域(数十keV(キロ電子ボルト))を観測することが最も望ましいことになる。当然、熱成分とその延長上にある非熱成分とを同時に観測することが必要である。実際に我々が観測できるX線は、種々の物理現象が複雑にからみあった結果として放出、伝搬されたものである。つまり、これら複雑に絡み合った物理現象を解き明かし、熱い宇宙と非熱的な宇宙の高エネルギープラズマの実体解明、それに含まれる基礎物理量の導出方法の確立とその実証が本研究の目的である。
我々の技術で開発したX線CCDは、小惑星サンプルリターンを目指す「はやぶさ」や国際宇宙ステーションの「MAXI」に搭載されるまでになった。次に、従来の素子とは異なった基板を使って試作し、220μm(マイクロメートル)の空乏層を達成していることを確かめた他、低雑音でも動作させられることを確認した。これらを基に、X線偏光を狙う微小画素の開発も進んでいる。
CCDの空乏層を厚くしても、その有効エネルギー範囲はなかなか広がらない。そこで、シンチレータを直接蒸着したCCD(SD-CCD)を開発した。こうして、0.1~100keV(キロ電子ボルト)のX線を効率よく、かつ高い位置分解能で検出できる。平成17年5月の気球実験により、上空で検出器の性能を実証した。名古屋大学で開発しているスーパーミラーは、80keV(キロ電子ボルト)までカバーできるので、2006年には我々の検出器と合わせて、気球により初めて天体観測をする計画である。
我々の開発しているX線用CCDは、感度や波長分解能において、これまでの測定技術を圧倒的に凌駕している。この技術を地上で応用するための研究開発を進めた。X線発光領域の極めて小さいX線源と、我々の技術を組み合わせて、新しいX線撮像装置を開発研究している。応用を狙うには、CCDの読出し速度の高速化が必要となる。このためにアナログASICを開発した。これを基に、低雑音高速化を狙った実用的なアナログASICの開発を進めている。
A(現行のまま推進すればよい)
宇宙高温プラズマの高精度観測を目的としたX線CCD素子の開発については、空乏層を厚くすることによる優れた低雑音動作、及び、画素の微細化を実現させており、また、高速読み出しに備えた専用ASICの開発にも目処を立てている。さらに、シンチレータとCCD素子を組み合わせて、軟X線から硬X線までの広範なエネルギー帯域に感度のある検出素子開発を進めている。以上のことから、X線CCD素子に関する研究については、順調に進展していると評価する。高度な検出器開発技術をベースに、今後の研究計画に関して明確な指針が認められ、宇宙高温プラズマを中心とした天体物理学において重要な成果が得られるものと期待する。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --