研究課題名:原子炉起源,地球起源反電子ニュートリノと太陽起源電子ニュートリノの高精度精密測定

1.研究課題名:

原子炉起源,地球起源反電子ニュートリノと太陽起源電子ニュートリノの高精度精密測定

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

鈴木 厚人(東北大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 素粒子物理研究の進展に大きく貢献してきたニュートリノであるが、その質量は、20世紀の終わりになってようやく解明され始めた。現在ニュートリノ質量に関する最高精度の測定は、原子炉反電子ニュートリノの振動現象を観測するカムランドが担っており、特定のニュートリノの種類に対しては、将来の加速器を使ったニュートリノ振動実験後でもこの状況は変わらない。カムランドでのより高精度な原子炉ニュートリノ観測は、素粒子研究推進上での最重要課題のひとつである。
 また、ニュートリノの伝搬に関する理解が進んだことで、ニュートリノ観測を地球科学や天体物理研究へ応用することが可能となってきた。カムランドは、地球起源反電子ニュートリノの観測を世界で唯一実現しており、今後の観測精度向上によるニュートリノ地球科学の推進を強く期待されている。また、ニュートリノ天文学推進に不可欠な低エネルギー太陽起源電子ニュートリノの実時間観測は、極低放射性バックグラウンド環境が必要であり、現在最も低バックグラウンドを達成しているカムランドがさらに低バックグラウンド化することで、世界に先駆けて実現できると期待されている。
 本研究は、時間・位置・エネルギー較正精度の向上、液体シンチレータのさらなる純化、データ収集用電子回路のデッドタイムフリー化によって、これらの研究課題を遂行するものである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 カムランドでは、原子炉反電子ニュートリノの消失およびエネルギースペクトルの歪みを世界で初めてまた唯一観測した。これらニュートリノ振動の直接証拠により、太陽ニュートリノ欠損問題の解明し、ニュートリノ質量に関する高精度測定に成功した。平成17年には、地球内部での熱生成を知らせる反電子ニュートリノも世界初観測し、ニュートリノ観測を応用するニュートリノ地球科学を創出した。
 液体シンチレータのさらなる純化に対しては、平成17年度までに放射性鉛、放射性希ガスを5桁低減する要素技術の開発に成功した。建設終盤である放射性重元素・希ガス除去装置は、平成18年秋より運転を開始し、平成19年より低エネルギー太陽起源電子ニュートリノの実時間観測を行う予定である。
 時間・位置・エネルギー較正精度の向上では、検出器内鉛直軸上での放射線源による較正に加え、ポールを2本のひもで吊すことで任意の位置に高精度で放射線源を配置する4π検出器性能較正装置の開発を行い、平成18年7月より運用を開始した。これにより原子炉起源、地球起源反電子ニュートリノ観測における系統誤差の大幅な改善が予定されている。
 データ収集用電子回路に関しても、メモリやデジタル回路の高速化を受けて、高速フラッシュADCで全信号をデジタル変換し、デッドタイムフリーで高速処理を行う電子回路を試作しており、平成18年度中のデザイン確定を予定している。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 カムランド検出器を用いた低エネルギーニュートリノの観測と、さらなる高精度測定を目指した開発研究が順調に進展している。原子炉起源反電子ニュートリノの測定においては、ニュートリノの振動パターンを初めて検出し、ニュートリノ質量に関する新たな知見が得られている。さらに、地球起源反電子ニュートリノ検出の成功は、ニュートリノによる地球内部診断への可能性を開き、地球科学等への波及効果も大きい。このような、独自の科学的成果が期待通りに得られていることを高く評価する。今後も、4パイ構成装置や低バックグラウンド化に関する開発を推進して感度と精度の向上に努め、原子炉・地球起源反電子ニュートリノの更なる高精度測定を実現するとともに、太陽起源ニュートリノの検出を確かなものにして、未開拓のBe7やCNOサイクルニュートリノの分離測定に成功することを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --