研究課題名:発熱型荷電交換反応による時間的領域でのスピン・アイソスピン応答

1.研究課題名:

発熱型荷電交換反応による時間的領域でのスピン・アイソスピン応答

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

酒井 英行(東京大学・大学院理学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 スピン・アイソスピン応答の研究の新しいパラダイムを開拓する。
 不安定核ビーム(RIビーム)が持つ他に類の無い特質を活かした発熱型荷電交換反応を用い、これまで未開拓であった時間的運動学領域でのスピン・アイソスピン応答の研究を推進する。特に、高励起状態に焦点を絞り、1)荷電ヴェクトル・スピン単極巨大共鳴の確立、2)二重ガモフ・テラー巨大共鳴の発見、3)二重ベータ崩壊に於ける中間状態の微視的理解の研究、を進める。
 この目的を達成するために、1.理化学研究所(理研)のRIビームファクトリー(RIBF)施設に高分解能磁気分析装置(SHARAQスペクトロメータ)を建設し1)と2)を進め、2.大阪大学核物理研究センターのNTOFと(n,p)施設に於いて3)に関する実験を遂行する。
 この研究により、1)全く新しい研究手法である「発熱型」荷電交換反応を確立することができる。そして物理的には、2)核物質のスピン圧縮率(スピン音波の伝播速度)やスピン応答の非線形効果(スピン‐フォノン・フォノン相互作用)などの核物理学の基本的知見が得られる。これらの情報は、例えば中性子星の、状態方程式や磁気的性質、進化などの理解と関連している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 これまでの主な成果は、1.2ν二重β崩壊核116Cdについて、中間状態の微視的理解のために行った(p,n)反応の測定結果は、従来知られていた(3He,t)反応の結果と大きく食い違うことを明らかにした。今回の結果から116Cd半減期を推定すると、(3.9プラスマイナス0.3)×1019年となり直接測定の値(3.3プラスマイナス0.4)×1019年とよい一致を示すことが明らかになった。2.多重極展開法の開発を行い、スピン双極子型(SD)遷移を導出した。模型非依存のSD和則を使い中性子スキン厚0.07プラスマイナス0.04fmを得た。これは中性子星の状態方程式(EOS)の密度と圧力を決める重要なパラメータでもある。3.運動量分解能(p/・p)14,700、立体角2.7msrが達成できる高分解能磁気分析装置(SHARAQスペクトロメータ)の基本設計を行った。4.SHARAQスペクトロメータによる高分解能測定を達成するための、分散整合ビームラインの設計を行った。5.ビームライン検出器として低圧動作型多芯線ドリフトチェンバーの設計・製作を行い、実機テストを開始した。6.理化学研究所と覚書を締結し、共同研究体制を確立した。7.不安定核ビームによる発熱型荷電交換反応の有効性を確認する実験のLOI(実験意図)を、ミシガン大学国立超伝導サイクロトロン実験施設(NSCL)の課題審査委員会(PAC)に提出した。
 以上、研究は当初の計画に沿って極めて順調に進展している。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 既に、二重ベータ崩壊の中間状態とされるガモフテラー状態への(p,n)反応による遷移強度を幾つかの核種に対して世界最高分解能で測定し、(3He,t)反応に基づく従来の解釈の矛盾を示す興味深い結果が得られている。また、本研究課題の主要実験装置となるSHARAQスペクトロメータの設計・建設についても、国際的専門家の協力を得て基本設計が終了し、大型スペクトロメータや二次ビームラインの設計製作が精力的に進んでいる。角度分解能、スペクトロメータ光学設計上の高次収差、焦点面軌跡検出器等に、乗り越えるべき課題はあるが、代表者の指導の下に若手研究者を有効に活かした研究組織が構成され、不安定核ビームを供給する理化学研究所との役割分担も明快である。以上により現行のまま推進すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --