研究課題名:マイクロK温度領域における量子臨界現象の研究

1.研究課題名:

マイクロK温度領域における量子臨界現象の研究

2.研究期間:

平成17年度~平成21年度

3.研究代表者:

鈴木 治彦(金沢大学・大学院自然科学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 温度を下げて絶対零度近になると量子ゆらぎが効いてきて特異な現象が現れる。また絶対零度における相転移(T=0K(ケルビン)において温度以外のパラメターを変化させて生じる相転移)を量子相転移とよび温度が有限である古典的相転移と比べて特異な相転移と成る。丁度T=0Kで相転移を起こすとき、その系は量子臨界点にあるといい、量子臨界現象も量子ゆらぎが効いて特異な現象を与える。
 この量子臨界現象の研究は現在多くの系で非常に精力的に行われている。特に重い電子系、或はf電子系で多くの研究がなされている。しかしながら殆どの研究は最低温度でも10mK(マイクロケルビン)程度、多くは0.1K(ケルビン)程度の低温で研究している。我々は重い電子系CeRu2Si2において150・K(ケルビン)まで冷却して帯磁率、磁化等を測定した結果、これまでには見られなかった新しい現象を観測しており、マイクロK(ケルビン)程度までの超低温領域の測定により、より本質的な量子臨界現象の研究が出来るものと考えている。具体的には3つの系CeRu2Si2の磁性、エアロジェル中の液体3Heの超流動,濃縮195Ptの核磁性を3人が分担して研究する。理論的にはT=0の時、秩序変数その他の物理量が量子臨界点に近づく時の臨界指数を求める研究が行われている。しかし実験的にはT=0は実現できないので、我々は出来るだけ冷却して、温度に対する臨界指数を求める実験を行う。また量子臨界点近傍の基底状態も明らかにする。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 研究は2台の核断熱消磁冷却装置を用いて行われる。その中で1台は阿部が中心と成ってCeRu2Si2ぼ研究を~100・K(ケルビン)程度まで冷却して測定しており引き続き研究を継続している。もう一台は松本が中心と成って作製してきた。この1年間で色々改良を加えて現在約300・K(ケルビン)以下まで冷却できる事が判明した。ヒートリークや冷却能力等は充分にあるので実験を開始しながら改良して行く事にした。またこの装置につけて同時に2~3個の試料の交流帯磁率測定を行う装置が完成し濃縮195Ptの磁性の測定を開始した。各サブプロジェクト毎に見る。
 1)CeRu2Si2系:150・K(ケルビン)まで冷却したとき0磁場では帯磁率はただ上昇して行くが、小さな磁場2,3.9Oeなどでは山をつくる。この山で何が起きているかを調べる為に熱膨張係数(比熱を導ける)の測定を開始した。今回の測定では何の異常も観測されなかったが、より感度を上げるように装置を改良して再度測定を開始した。室蘭工大で0.1K(ケルビン)までの測定で量子臨界点近傍と思われる現象を観測したRh或はLaを微量にドープした試料を作製してもらった。2)エアロジェル中の液体3He:実験用のセルを作成中、間もなく完成の予定。超低温での超音波測定法を色々試みた。3)濃縮195Pt:細線、粉末、フォイルなどの試料の帯磁率測定を行った。どういう試料が我々の目的に適しているか検討中。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 超低温実験装置の整備に関しては順調に進展している。超低温領域でのふるまいは試料の質に極度に敏感となることが予想されるため、信頼性の高いデータを得るために試料のキャラクタリゼーションにも努力が傾けられている。量子相転移の本質を明らかにするには理論やシミュレーションを併用した研究が不可欠と思われるが、その点についても意識的な努力が払われており、物理に新展開をもたらす研究環境が整備されつつある。大学からも十分なサポートを受けており、全体として現地調査の段階では特に問題なく、当初の研究計画調書におおよそ沿った形で順調に研究が進んでいるものと認められ、今後は質の高い成果が期待できる状況にあると思われる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --