研究課題名:現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究

1.研究課題名:

現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究

2.研究期間:

平成16年度~平成19年度

3.研究代表者:

佐藤 嘉倫(東北大学大学院文学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究課題は、1955年以降10年ごとに実施されてきた、「社会階層と社会移動に関する全国調査」(略称SSM調査)の第6回調査研究プロジェクトであり、「流動性」と「不平等」に焦点を当てて、日本社会の階層システムの構造と変動を理論的および実証的に解明することを目的とする。近年、社会階層をめぐって一見、相矛盾するような2つの言説が見られる。「流動化」と「階層の固定化」である。前者は、労働市場の制度的弛緩や流動性の高まりに着目している。一方、後者は、特定の出身階層と本人階層との連関が強まっていることを指摘している。近年の日本社会の階層現象という同じ観察対象に対して、両者は異なる主張をしているように見える。しかし階層論の視点から見ると、流動化といっても、影響を受ける人と受けない人がいる。この格差の背景には、職歴、学歴、出身背景などの違いがあると考えられる。このことをより広い文脈に置くならば、本研究は、流動性の高まっている日本社会において、その背景にある階層問題を抽出し、そのメカニズムを解明することを目的とする。
 本研究の意義は大きく2つある。第1は、SSM調査という世界に類を見ない長期的な継続的調査であり、その蓄積により日本社会の階層構造を長期的に追跡できることである。第2は、労働市場、教育、ジェンダー、公共性という従来から重視されてきた領域における研究成果を踏まえて、流動性を深いレベルで学術的に捉えるということである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究では、平成17年度に実施した本調査(日本、韓国、台湾)のための準備活動、本調査の実施、研究テーマの追求、調査データの整理という4つの活動を進めてきた。各年度では次のような研究活動を進めてきた。
 平成16年度 (1)研究組織の立ち上げと研究推進体制の整備、(2)予備調査データの整備、(3)予備調査データの分析と研究成果の取りまとめ、(4)本調査を円滑に進めるためのタスク・グループによる特定課題の追求、(5)国際比較のための研究活動、(6)職歴調査の実行可能性などを確認するための韓国・台湾における予備調査の実施、(7)SSM調査の継続性を維持するための基盤整備。
 平成17年度 (1)国内調査のための準備と実施、(2)台湾調査のための準備と実施、(3)韓国調査のための準備と実施、(4)これらの研究活動を行うための会合の開催。
 平成18年度 (1)個別研究テーマを追求するための研究会の立ち上げ、(2)調査データの整理、(3)若年層調査実施のための準備(今秋に実施予定)。
 まだ本調査データの整理中なので、これを用いた本格的な研究はこれからである。したがって今までの研究成果は、予備調査データや過去のSSM調査データを用いて本調査のための分析を行ったものが多い。著書6冊、科学研究費研究成果報告書2冊、論文59本、学会報告54本が国内外で公表されている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 研究の準備と実施は着実に進んでいる。階層の流動化と固定化、中間層の上方・下方への分裂といった視点、データ蓄積の乏しい東アジアを後発産業社会として把握する比較研究からは大きな研究成果が期待される。今後は、階層流動化の理論的な捉え方をより明確にするとともに、日韓台という東アジアの捉え方の妥当性も再検討しつつ、こうした階層分析が社会福祉や労働に関する政策提言に繋がっていくことを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --