日韓米独中における3レベルの市民社会構造とガバナンスに関する総合的比較実証研究
平成17年度~平成21年度
辻中 豊(筑波大学・人文社会科学研究科・教授)
本研究は、政治と社会の相互作用としてのガバナンスの解明にむけて、日本の市民社会の構造を包括的かつ実証的に調査し、米韓独中との5カ国比較を基に日本の特徴を明らかにする。ここで構造とは市民社会組織全般を指し、特に本研究では3つのレベル(「伝統的な近隣住民組織(自治会、子供会、老人会など以下近隣組織)」、「既存の社会団体」、「新興の運動体(NPO・NGOなど)」)の構成要素に注目し、実態的、比較的、歴史的に徹底的な実証研究を行い、現代日本市民社会の構造的パターンを発見しようとする。また、調査は、日本全国では包括的に、韓米独中の4カ国では3ヵ所を調査し、市民社会論、ソーシャルキャピタル論、政策ネットワーク論、ガバナンス論という相互に関連する4つの理論的背景を基に、組織・指導者の属性、他の政治・行政アクターとの関係、住民・市民との関係、市民社会組織(3レベル)相互の関係、影響力評価、政策志向・行動、信頼関係、公共性意識などの設問を設ける。
本研究の意義は、世界で初めて市民社会組織全般への構造的(行動・関係)で比較政治的な大規模実態調査(日本は全国)を行う点にあり、さらにこれまで体系的な全国調査がされたことのない近隣組織から近年急速に台頭するNPOまで包括的に調査し、その構造・行動特性や相互関係・作用を解明する点にある。また、日本とともに実態調査される4カ国、韓中米独は日本との比較可能性も高く、ガバナンスとの相関分析での成果が期待できる。
これまでの主な研究目標であった「3レベルの調査枠組み整備」と「予備調査の実施」については、全国、つくば市で計4種の予備調査を実施し、調査結果を得て、研究者間の情報共有とともに、創造的なアイディアを獲得することができた。以下に確定された事項のポイントを記す。
1)審査コメント事項やワークショップ(7回開催)を通し、次のような点が議論され方向性を確定した。
2)国際市民社会組織調査にむけての理論的・実証的再検討。
3)日本調査における近隣組織など新規の調査方法の検討と予備調査の実施。
4)NPO法人と社会団体調査の調査方法の検討と確定。母集団情報のデータベース作成。
5)発表論文7件、図書3件などの刊行、資料集成12巻の編集作成。
A(現行のまま推進すればよい)
日韓米独中の5カ国において、伝統的近隣住民組織、既存の社会団体、新興の運動体という3種類の市民社会組織の調査は類例のないものであり、こうした調査によって日本における市民社会の特徴を明らかにしようとする本研究は野心的な取り組みである。これまで既存の研究成果の再検討から研究計画の作成・見直しを進め、海外研究協力者を含む研究チームでの意見交換・情報共有を通じて共同研究体制が確立されてきている。このような大規模調査によって可能となる、概念的、あるいは理論的ブレイクスルーの可能性について十分な検討がなされることを望む。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --