アジアバロメーターを通じたアジア人の生活・規範・価値の実証研究
平成17年度~平成20年度
猪口 孝(中央大学・法学部・教授)
アジア社会は「実証社会科学体系的データの砂漠」と言われる。本研究計画は「アジアの普通の人々の日常生活」を欧米の世論調査と比較できる方法を使いながら、アジア社会の歴史的文化的な特異性に十分配慮した研究設計によって、いままでになかったアジア社会の貴重な世論調査データを作成する。さらに、一時喧伝された「アジア的価値観」に代わる「アジアにおける市民の人間・社会観」の統一的概念化を実証的に裏付けしながら試みる。とりわけこの20年間大きな流れとなっている「グローバル化」に対する態度・行動がアジアではヨーロッパにくらべてもより前向きで開放的なものになっていることに注目し、アジアの普通の人々の人間・社会観の統一的概念化を試みたい。それに寄与していると思われる「新中間層」がどのような性格を持つかについても概念化したい。
本研究計画の特色の第一は、草の根レベルで普通の人々の日常生活からアジアを見、それを比較世論調査で横断的体系的にデータ化することである。第二に、アジアの現地社会科学者と一緒に質問票を作り、一緒にデータを分析し、一緒に成果を刊行することである。さらにアーカイブに保存することにより、全世界でその成果を共有することを目的としている。
アジア社会を南アジア、中央アジア、東アジア、東南アジアに分けて、初年度は前二地域、第二年度は東アジア、第三年度は東南アジアと世論調査を行う予定である。第四年度は各亜地域とも言える日本、中国、インド、インドネシア、カザフスタンでより大きなサンプルで調査を行う。2005年度は南アジアと中央アジアの計14カ国で世論調査を行った。現地社会科学者を集めて、各国分析論文を発表討論したアジア・バロメーター・ワークショップを2月に行った。現在は各国分析論文と主題分析論文を改定・編集して英文学術書刊行に迅速に向かっている。英文書は日文書に翻訳される予定である。2006年度は東アジアの世論調査を夏期に行うために、質問票作成と現地語翻訳の完成に向かっている。2006年末にアジア・バロメーター・ワークショップを開催、その際の提出論文を英文と日文で学術書として刊行予定である。このように、毎年、世論調査、データ分析・執筆、学術会議・公開シンポジウム、学術書刊行というサイクルで動く。別の資金元で2003年度と2004年度アジア・バロメーターを行った成果は2005年、2006年に学術書を刊行済である。アジア・バロメーターのウェブ・サイトは日・英語で開設されている。また、ミシガン大学と東京大学のデータ・アーカイブにもデータ寄託し、データ・アクセスができるようにした。
A(現行のまま推進すればよい)
アジアにおいて「普通の人々の日常生活」観を調査し、国家横断的データを構築しようとする本研究の意義は大きい。世論調査の方法論的限界や調査国によって質問項目が制限されることなどは現地研究者との連携によって補完するよう注意も払われている。今後は、単なるデータ構築を超える、国際的インパクトを考えた斬新なテーマに絞った二次的分析・研究の発展も視野に入れるべきであろう。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --