研究領域名:アクアポリン水チャネルの生命維持機構とその破綻病態の解明

1.研究領域名:

アクアポリン水チャネルの生命維持機構とその破綻病態の解明

2.研究期間:

平成13年度~平成16年度

3.領域代表者:

佐々木 成(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 水は生命現象にとって必須の物質であり、体内ではみかけ以上にダイナミックな水輸送が行なわれ生命が維持されている。この水輸送を支える膜蛋白としてアクアポリンが見つけだされて僅か10余年である。全身のほぼ全ての臓器に存在し、多数のアイソフォーム(ヒトでは13種)が遺伝子ファミリーを形成している。機能も水だけではなくグリセリンや尿素のような小分子、ガス、イオンを通過させるものがある。細胞膜への発現がホルモンによって調節されているものもある。本特定領域研究ではこの多種多彩なアクアポリンの存在部位を詳細に調べ、各臓器でのアクアポリンの生理的・病理的役割を明らかにし、その調節機構を解明し、アクアポリン異常症の病態解明、さらには治療法の開発を目指し、アクアポリン研究の基礎を固め、次の飛躍の足場を作ることを目標に研究を4年間にわたり10名の研究者を中心に行ってきた。新しいアクアポリンファミリーメンバーの同定、存在部位の詳細な検討、ノックアウトマウスを中心とした機能解析、結合蛋白を中心とした調節系の解明などに優れた成果を挙げ、特に水チャネルに留まらないアクアポリンの機能の多様性、そして多彩な細胞内調節系の解明は、世界をリードするものであり、日本のアクアポリン研究の世界的競争力を確立することができた。

(2)研究成果の概要

  1. ラットのアクアポリンに対する特異性の高い抗体を作りアクアポリンマップ(臓器分布)を作成。
  2. 新規アクアポリンのAQP10,11,12をクローニング。
  3. AQP7,8,11,12ノックアウトマウスは出生。AQP9のノックアウトはESクローンの選択の段階。AQP11ノックアウトマウスはのう胞腎で腎不全で死亡。優性遺伝のヒトAQP2尿崩症変異導入ノックインマウスは尿崩症になった。
  4. 優性遺伝の腎性尿崩症家系のAQP2はC末の延長で正常AQP2のトラフィッキング異常。
  5. AQP2のC末に結合するPDZ1ドメインをもつタンパク(SPA-1)を同定し、そのノックアウトマウスは尿濃縮力障害。さらに免疫アフィニイークロマトグラフィーでAQP2に付着する蛋白16種(アクチンなど)同定。
  6. AQP5のアセチルコリンによる唾液腺管腔膜への動員が老齢ラットで減少し、新規コリン作動薬で改善され治療薬として有望。
  7. シェーグレン症候群患者唾液腺には健常人にはないAQP5のC末に結合する17kDa(キロダルトン)のタンパクがある。
  8. グリセリンはAQP7を通って脂肪細胞から出てAQP9を介して肝細胞に取り込まれ糖新生に使われる。ヒトとマウスでAQP7欠損によるグリセリン代謝異常、またAQP7ノックアウトマウスは内臓肥満。
  9. ヒトAQP7発現のない精子が不妊症の患者の一部に見られた。AQP9は腸管胚細胞に発現。
  10. 昆虫Sf9細胞に大量発現させたAQP4の2次元結晶化の立体構造解析で分子同士の結合に関与。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 アクアポリンという比較的新しい領域であるためか、研究領域全体としての方向性、統一性が明確でなく、目的を十分に達成したとは言えない。新しく同定されたファミリーの局在解析とノックアウトマウスの解析が主体で、個別のチャンネル機能を充分理解することは今後の課題として残された。個々には興味深い成果を上げているが、相互の連携が十分であったとは見受けられない。研究者個別の成果の中には十分とは言えないものが認められるが、領域全体としては一定の成果が得られており、研究成果の取りまとめや公表はきちんと遂行されている。水チャンネルの異常研究は広く生物学分野に影響を持ち、他分野への貢献はあったと判断できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --