研究領域名:ほ乳動物細胞のG1期制御因子から複製装置にいたるシグナル伝達ネットワークの解明

1.研究領域名:

ほ乳動物細胞のG1期制御因子から複製装置にいたるシグナル伝達ネットワークの解明

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

正井 久雄(財団法人東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所・副参事研究員)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 動物細胞は増殖因子、分化因子、他の細胞との接触あるいはDNA損傷要因などの外界の刺激に応答してその増殖が厳密に制御される。増殖因子刺激は受容体を介してチロシンキナーゼの活性化、RAS/MAPキナーゼ活性化、転写因子の活性化などのシグナルとして核内に伝達される。一方、細胞周期の研究から、CDK-サイクリン複合体が細胞周期の進行の主要なdrivingforceとなっていることが明らかになった。特にG1期においてはCDK4-サイクリンD1-Rb-E2F経路によるG1期制御は最もよく理解されている。一方、細胞増殖のかなめである染色体複製を司る複製複合体の構成因子についても酵母やカエルにおける遺伝学的、生化学的研究から明らかになってきた。しかしながら、G1期の細胞周期制御因子による染色体複製の開始と伸長の制御機構、あるいは他の細胞増殖のイベントとの厳密な共役機構については依然として未知の点が多い。また、ほ乳動物においては、増殖と分化は種々の細胞外シグナルのきわめて厳密かつ精緻な制御下にあり、それらのシグナルがいかにして染色体複製を制御するかについては大部分未解決である。本特定研究では、ほ乳動物細胞の関連する分野の専門家を一つの特定研究課題のもとに集合し、G1期制御から染色体複製開始と進行に至る制御の分子機構を解明すること、さらにそれらの解析から癌細胞における異常増殖や、幹細胞の自己増幅と分化の過程に特有なDNA複製制御などの分子基盤の解明を目的とする。これらの研究により、動物細胞の増殖制御の基盤の重要な側面が解明されるとともに、癌あるいはウィルス性疾患の新規治療標的の開発、幹細胞の増殖分化制御技術の開発とその細胞治療への応用などが期待される。

(2)研究成果の概要

 G1期のシグナルはCdk4-サイクリンの活性化を通じてE2F転写因子の活性化をもたらす。E2Fは、G1-S期移行に必須な因子のみならず、S期因子、チェックポイント因子、修復因子さらにG2-M期進行に必要な因子も誘導し、細胞を増殖サイクルへと導くとともに、複製進行や引き続く細胞分裂の過程の協調的連動に貢献する。E2Fにより発現誘導された、複製タンパク質は複製複合体の形成と活性化を促進する。ORC,Cdc6,Cdt1,MCMに依存して、鋳型上にpreRC(prereplicativecomplex;前複製複合体)が形成されるが、転写因子を介した核マトリックスと複製装置との密接な相互作用が複製装置の形成に重要な役割を果たしている可能性が示された。CdkとCdc7は、MCM2おとび4のN端領域を広範にリン酸化し、これにより複製複合体の成熟、ヘリカーゼの活性化をもたらしpreRCを活性化する。この過程でMCMヘリカーゼは特定の鋳型DNA構造により活性化される。複製フォークの進行時には、複数のクランプ・ローダーシステムが連動し、多様なDNA代謝酵素、DNA合成酵素が機能的に協調し複製から分配にいたる染色体動態の厳密な制御を可能にする。癌細胞や、全能性の幹細胞では、複製因子の多くあるいは特定のサブセットが過剰に発現しており、タンパク質機能ネットワークが異なる定常状態にあり、それぞれの細胞特有の細胞周期進行に関連している可能性がある。これらの過程に関与する因子の発現の脱制御は、ゲノムの不安定性を誘導すること、複製因子の発現抑制によりがん細胞特異的な細胞死が誘導されることも示され、複製因子が制癌の有効な標的となる可能性が示唆された。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究領域は細胞周期の進行におけるG1制御から、複製開始、複製フォークの形成に至る過程の全体像を明らかにし、その制御機構を解明することが目的に設定されており、その目的は十分に達成された。比較的若い研究者により組織された小グループの領域であるが、一定の成果は上がっている。G1期からS期に関連する転写因子E2Fの制御に関し、その標的として複数の関連分子を同定した。また、複製開始機構に関する興味深いモデルを提供できる成果が出せる段階まで到達している。多数の転写関連複合分子の関連性を明らかにしており、高いレベルの成果を上げていることは評価に値する。参加した研究者はそれぞれレベルの高い研究を遂行しており、その研究成果は効果的にとりまとめられ、関連学問分野への貢献も高い。成果の公表に関しても積極的に行われた。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --