研究領域名:スフィンゴ脂質による生体膜ドメイン形成と多機能シグナリング

1.研究領域名:

スフィンゴ脂質による生体膜ドメイン形成と多機能シグナリング

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

五十嵐 靖之(北海道大学大学院薬学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生物界に広く分布するスフィンゴ脂質は、細胞膜ミクロドメインの必須な構成分子として、あるいは細胞内外で働く新たな情報伝達分子として、細胞機能や生存に深く関わる重要な膜脂質であることが明らかにされつつある。本研究では、(2)細胞の生存と死という生体ホメオスタシスに関わるスフィンゴ脂質の役割を、細胞変異株やトランスジェニック動物を使って細胞内輸送機構、膜ドメインの形成との関連で明らかにしていく。(2)セラミド、スフィンゴシン1ーリン酸などのスフィンゴ脂質シグナリング機構の全体像をシグナリング分子の生成分解の調節機構の解明や特異的受容体の同定と機能解析などによって明らかにすることを目的とし、以下に掲げる課題を各班で連携しながら追求した。平林班:細胞の生存と死におけるスフィンゴ糖脂質の役割ートランスジェニック動物を使ったスフィンゴ糖脂質膜ドメインの形成と生物機能発現の調節機構 花田班:細胞内スフィンゴ脂質選別輸送の分子機構と生体膜ドメイン形成にはたす役割 小堤班:細胞質分裂に関与するスフィンゴ脂質シグナリング 伊東班:中性/アルカリ性セラミダーゼによるスフィンゴ脂質シグナリングの制御 岡崎班:セラミド・シグナル調節による細胞死誘導機構の解明とその臨床的意義 五十嵐班:スフィンゴシン1ーリン酸とその受容体の情報伝達機構と生理機能の解析ーその種々の病態との関わりと臨床応用可能性の追求

(2)研究成果の概要

 本領域研究の成果は、この5年間に317報の原著論文、66回の国際学会シンポジウムでの招待講演などに端的に示されている。又この期間に3回の100名規模の国内公開シンポジウム、平成16年度7月には世界中から40名近くの研究者を招いた200名規模のスフィンゴ脂質国際シンポジウムを札幌で開催成功させ、この成果は、英文モノグラフ『DevelopmentofSphingolipidBiology』として出版される。今回の特定領域研究「スフィンゴ脂質」は、スフィンゴ脂質研究を新しい次元に押上げたこと、国際的にもこれをリードできるようになったこと、更に若い研究者層を増やし研究領域の拡大を計るという点で大成功を納めたと確信している。各班のハイライトとなる大きな成果として、(平林班)スフィンゴ脂質合成の鍵を握る遺伝子、Sptlc2(エスピーティーエルシーツー)の組織特異的ノックアウトマウス(T細胞、皮膚、プルキンエ細胞)(花田班)セラミドをERからゴルジ体に運搬する遺伝子CERT(サート)を初めて同定、その基質特異性や運搬機構の解析。(伊東班)中性セラミダーゼの発見とそのムチンボックスの存在と役割の解明。(小堤班)サイコシンによる細胞質分裂異常の原因解明(岡崎班)動物細胞スフィンゴミエリン合成酵素のクローニングの成功。(五十嵐班)スフィンゴシン1ーリン酸(S1P)の動態と代謝に関わる多くの新規遺伝子のクローニング、同定とそれらの機能解析、マイクロドメイン形成制御とその病態の究明などがあげられよう。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 セラミド輸送系の解明・代謝系に関わる酵素類の解明などは、質が高く着実に進展しており、設定目的の達成度は高い。膜輸送のメカニズムでは特に大きな進展があった。しかし、マイクロドメインからのシグナル伝達のメカニズムや病態との関わりにおいては成果が少なかった。また、より広い学問領域への貢献においては、やや欠ける面があった。国際的に広くスフィンゴ脂質の普及・発展に寄与した点は評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --