定常核融合炉の物理と工学の新展開
平成11年度~平成16年度
本島 修(核融合科学研究所・所長)
魅力的な核融合炉の実現のためには、プラズマの高性能化と定常化の同時達成が不可欠である。核融合科学研究所で進められている大型ヘリカル装置(LHD)に代表されるヘリカルシステムは定常化に最適な核融合炉概念であり、そのプラズマの物理の多様性は環状閉じ込め物理の幅広い解明にも寄与するものである。本研究計画では、世界の多様な磁場配位におけるヘリカルプラズマの物理解明を進め、炉工学開発をも進めてヘリカル型核融合炉の展望を開くことを目標においた。
特に国際事業の視点から発足当時の各研究課題を科学研究費研究に当て、研究内容の一部を取捨選択し、国際共同研究として重点化を図り、
(1)LHDでの経常経費では不可能な国際協力研究による機器試作開発、共同実験
(2)領域の研究課題は広範であるが、国際共同として特化した課題の推進
に力点をおいて計画を推進してきた。
本領域の研究計画は、1.コアプラズマ閉じ込め、2.周辺プラズマ制御、3.プラズマ計測・加熱開発、4.炉工学開発、の4分野に大きく分かれており、それぞれ2-4の研究課題から構成されている。そしてプラズマの閉じ込め物理に関する研究と、それを支えるプラズマ計測と加熱技術、さらに超伝導技術を中心とした炉工学技術の開発も平行して研究を行ってきた。核融合研究においては、プラズマ物理と炉工学の両面から研究を進めることは極めてて重要な点であり、本計画の持つ意義は大きかったと考えられる。
コアプラズマの閉じ込めに関する研究においては、ドイツのマックスプランク物理研究所(IPP)と協力して、高速荷電交換分光システムを完成させた。IPPの有するヴェンデルスタインVII-ASおよび、アスデックスアップグレードにて、イオン温度と電場を計測した。「高エネルギー粒子の振る舞い」については、米国プリンストン大学との研究協力により整備した電場磁場平行型中性粒子分析器、オークリッジ国立研究所との国際協力により設置したSi半導体型NPA、ロシアとの共同研究によるダイヤモンド型検出器を用いて、LHDにおける高エネルギー粒子を計測し、ヘリカル装置における高エネルギー粒子の閉じ込めを解明した。
周辺プラズマ制御では、ロシアのサンクトペテルブルグ通信国立大学と共同で、強力な排気が可能になるメンブレーン排気の開発を進めた。
プラズマ計測・加熱の開発では、特定粒子の局所的供給を応用してプラズマ粒子の閉じ込め制御を試みるために、国立サンクトペテルス工科大学のグループとの共同研究を進め、高性能トレーサー内蔵極低温ペレット生成・射出の原理検証実験に成功した。
炉工学開発においては、ドイツ・カールスルーエ研究所(FZK)で開発された20kA級高温超伝導体(HTS)電流リードの冷却通電実験を、NIFSの大型超伝導実験設備を用いて国際共同研究として行った。その結果定格通電に成功し、1時間以上に渡る通電実験を繰り返し行って、信頼性及び再現性を確認した。
A(期待どおり研究が進展した)
定常核融合炉の物理と工学の連携のもと、国際協力が強力に進められ、研究領域の設定目的を達成している。期待された研究成果を上げており、その公開・普及も良く行われている。周辺分野を含めた国際ネットワークの構築が進んだ点が評価でき、今後の展開に期待が持たれる。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --