研究領域名:チベットにおける高エネルギー宇宙線放射天体の研究

1.研究領域名:

チベットにおける高エネルギー宇宙線放射天体の研究

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

湯田 利典(神奈川大学工学部・特任教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 チベットのヤンパーチン高原(標高4300m)に中国と共同で高感度の空気シャワー観測装置及び太陽中性子観測装置を設置し、活動的天体からの高エネルギーガンマ線,高エネルギー宇宙線及び太陽フレア(太陽表面での爆発現象)に伴って発生する高エネルギー中性子等宇宙由来の粒子を以前に比べて大きく向上した精度と統計量で観測し、宇宙線の発見以来未解決の高エネルギー宇宙線の起源、加速及び伝播の問題解決のための糸口を探る。また、11年周期で変動する太陽活動は、本研究期間の間にほぼ極大に達する(サイクル23)。この時期の太陽活動に伴う宇宙空間での宇宙線の変動や銀河宇宙線がつくる太陽の影の変動を観測し、高エネルギー宇宙線による太陽及び太陽磁気圏物理への新たな研究の展開を目指す。特に、本研究の基幹装置となる高精度空気シャワー観測装置は、300mx300mの面積に約800台の検出器を7.5mの等間隔に配置したもので、約2TeV(テラエレクトロンボルト)以上の宇宙線シャワーを観測できる世界最大の広視野宇宙線望遠鏡である。全天から到来する膨大なTeV(テラエレクトロンボルト)領域の宇宙線をエネルギー、到来方向毎に高精度で連続観測するのは初めてであり、研究の新たな展開に繋がる貴重なデータが得られる。

(2)研究成果の概要

高精度空気シャワー観測装置の増強とアップグレードは99年から漸次行なわれ、03年秋に完成した。宇宙線シャワーは毎秒約1700イベントの高頻度で観測され、その到来方向を1度より小さい角度精度で計測できる。太陽中性子望遠鏡は99年秋に完成し、太陽フレアの常時監視を続けている。これまでの主な成果は、1)カニ星雲、活動銀河核Mrk421及びMrk501からのガンマ線の観測。これは空気シャワー装置によるガンマ線放射天体の世界最初の観測である、2)銀河の宇宙線強度の大規模異方性のエネルギー依存性の最初の観測。Cygnus(シグナス)領域に有意な異方性を観測、3)knee領域の一次宇宙線の全粒子及び一次陽子成分のエネルギースペクトルを観測し、kneeの主成分は陽子ではないことを明らかにした、4)サイクル23の太陽活動期間の太陽の影を観測し、極大期に特有の新たな変動を見出した、5)硬X線強度X3クラスの太陽フレアに伴う中性子の観測に成功。10GeVを超える高エネルギー中性子が含まれ、電子とイオンの同時加速を示唆するイベントが観測された、などである。これらは、高エネルギー宇宙線の起源・加速問題、太陽・太陽磁気圏及び銀河系空間の磁場と宇宙線の結合問題に関連する重要な観測事実である。まだデータの解析中であり、今後も観測を継続することにより、新たな成果が期待できる。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 チベットにおける空気シャワー観測装置、太陽中性子観測装置の増強が進み、他所にはない高エネルギーガンマ線、宇宙線及び中性子に関する様々な観測結果が得られている点は評価できる。しかしながら、その科学的成果に関しては、観測データの解釈や追究が不十分であり、新たな学術的知見の創出に至っていない。当初の目標とした高エネルギー宇宙線の起源、加速及び伝播の問題に関しても、その糸口が見出されたとは言い難く、研究目標の明確化や見直しが必要であったと考えられる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --