研究領域名:ゲノム機能解析とインフォマティクスを駆使した生命システムの解明

1.研究領域名:

ゲノム機能解析とインフォマティクスを駆使した生命システムの解明

2.研究期間:

平成16年度~平成21年度

3.領域代表者:

高木 利久(東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ヒトの遺伝子数が予想よりも少なかったことにより、ゲノムはわれわれの想像をはるかに超える巧妙な仕組みを獲得して生命現象を司っていることが明らかとなった。この仕組みを明らかにすることこそが新たな段階のゲノム研究に求められている。
 そこで、本領域では、ゲノム情報から生命をシステムとして理解するための方法論と技術の開発およびこれらを駆使した生命システムの新たな理解を目指して研究を展開する。より具体的には、ゲノム情報からの相互作用およびパスウェイやネットワークの予測、パスウェイやネットワークとの種々の生命現象との対応つけによるシステムの解明、システムの解析による細胞や生体の振る舞いの予測、および、これらを可能とするための方法論や技術(情報、計測、実験)の開発に関する研究を行う。また、このようにして開発した技術やデータを駆使して種々のレベルの生命システムを計算機上に再構築するとともに、これらを解析することにより生命システムの振る舞いや規則性に関して新たな理解を得ることを目指す。本領域は、ゲノム研究を基盤として、その上に生物、情報、計測の各分野を融合した新たな研究スタイルを確立し、生命のより深い理解を目指すものである。
 本領域では、領域を以下の4つの研究項目に分けて、研究を展開する。
A01ゲノム機能に関する情報の収集と統合による生命システムの再構築
A02高度なデータ取得技術の開発とそれを用いた生命システムの解明
A03モデル化とシミュレーションによる生命システムの理解
A04生命システム解明のための革新的な情報解析技術の開発

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 上記の4つの研究項目に対して、平成17年度は、計画研究16件、公募研究28件の合計44件の具体的な研究課題が設定され、活発な研究活動を展開してきた。その結果、本領域は平成17年度に始まったばかりであるが、文献からの種々の概念間の関係性抽出手法とその組み合わせによる潜在的知識の発見手法の開発、メダカ変異体におけるいくつかの原因遺伝子の絞り込み、枯草菌等の微生物における転写制御ネットワークの解明と必須遺伝子の機能解析、標的部位のリン酸化の絶対定量技術の開発、MAPキナーゼカスケードにおける未知の相互作用の発見、計算機シミュレーションによるシグナル伝達ネットワークの解明、脊椎動物の体節原器の形成における転写因子Hes7(ヘスセヴン)の機能解明、発現データと相互作用データからの遺伝子制御ネットワークとタンパク質間相互作用ネットワークの同時推定法の開発、解剖名称の自動分類による動植物をまたいだ遺伝子発現データの統合化、などに関して多くの成果を得ることができた。
 なお、これらの成果に関して、領域全体で、約240報ほどの論文(研究の継続性を考慮して、ここ1年ほどの成果を含む)が出ている。また、5件の特許が出願されている。さらに、研究の成果の一部はデータベースや解析ソフトウェアの形でインターネットを通じて公開されている。そのサイト数は36にのぼり、いくつかのものは世界中から日々多くのアクセスがある。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 当該領域は、生命をシステムとして理解するために、ゲノム解析等により膨大かつ精密なデータを蓄積しつつある実験生物学者と、コンピュータを駆使して要素間の因果関係の俯瞰的なモデルを構築しつつある情報科学者との融合を通じて、新たな学問領域を創成しようとする意欲的な試みである。単に生命をシステムとして扱うだけではなく、膨大なゲノム情報を活用することにより、個別的現象のモデル化からゲノム全体にまたがる大規模システムのモデル化へ、個別生物種から進化過程を通じた普遍的なシステム原理解明へと、従来とは一線を画す挑戦的パラダイムシフトを目指すものである。この研究を通して、理論と実験の両者に通じた人材の育成が予見され、そのような人材が新たな研究スタイルを確立・推進することが期待される。このような野心的な試みは、領域を組むことによってのみ可能であることから、本研究には多くの若い創造力豊かな研究者の参加が望ましい。まだ研究体制の発足から日が浅いが、研究は順調に推移しており、設定目標へ向けた確実な進展を見て取ることができ、我が国における生命システム学の醸成に向けて大いに貢献するであろう。本領域は将来の我が国の生物学にとって、恐らく最も重要な基盤形成になるものと期待されることから、未知の領野の開拓という点を踏まえた意欲的な試みと評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --