研究領域名:基盤研究に基づく体系的がん治療

1.研究領域名:

基盤研究に基づく体系的がん治療

2.研究期間:

平成16年度~平成21年度

3.領域代表者:

上田 龍三(名古屋市立大学大学院医学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域は「がんの体系的理解と個人に最適ながん医療を目指して」という、がん特定5領域共通のキャッチフレーズのもとに推進するものであり、難治がんに対する新しい治療原理の確立、治療法の開発を目指し、がん患者個人に最適の治療法の確立と言う社会的なニーズにも応えることを目的としている。本目的遂行のため、近年のバイオサイエンスの進展に基づく基礎研究の進展から得られる成果をがん治療の観点から、臨床に導入することを視点におき、「分子レベルでのがん治療」として、「A01:がん化機構を基盤とした分子創薬と分子標的治療」、「A02:遺伝子治療の新戦略」を掲げ、「がん治療の新戦略」として、「B01:免疫・細胞療法の基盤と応用」、「B02:ドラッグデリバリーシステムの開発」、「B03:新しい物理療法の開発」をテーマとして研究を推進している。また本領域では5領域におけるトランスレーショナルリサーチ(TR)のシーズを活かしていくためにTR検討委員会を設置し、領域間で連携しながら運営している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本領域はまだスタートしたばかりであるが、計画研究は順調に進行しており、既にいくつかの論文が発表、あるいは印刷中となっている。また、特許の申請もすでに17件行われた。一部の成果はトランスレーショナルリサーチ(TR)として臨床試験も開始され、その臨床効果が注目されている。研究項目A01においては宮園(東京大)はTGF-βのシグナルを抑制するSmad7(スマッドセブン)やSkiの作用のinvivoでの検討を行い、アデノウイルスに組み込んだSmad7(スマッドセブン)やSkiが乳がん細胞の肝臓や肺への転移を抑制することを明らかにした。また、TGF-β拮抗性低分子化合物がinvivoで血管新生を抑制する作用があることを明らかにしている。A02において斉藤(東京大)はFLPあるいはヒト型・温度安定型FLP(hFLPe(エイチエフエルピーイー))発現293細胞を用いたヘルパー依存型アデノウイルスベクター(guttedベクター)生成効率の検討を完全長ウイルスゲノム導入法を用いて行った。この結果hFLPe(エイチエフエルピーイー)発現293細胞はFLP発現293細胞よりも高い効率でguttedベクターを生成可能であることが明らかとなり、細胞株におけるhFLPe(エイチエフエルピーイー)の有用性が示された。B01において今井(札幌医大)はマウス抗体をもとに遺伝子工学的手法を用いヒト型モノクローナル抗体を作製し、マウスの抗体と同様の抗腫瘍効果が得られるか検討している。現在、がん細胞に発現している抗原の一つに対するマウス抗体のH鎖、L鎖のCDR1、CDR2、CDR3の遺伝子配列をそれぞれクローニングし、これらをヒト免疫グロブリンIgG発現ベクターに組み込み、抗体産生細胞に遺伝子導入した。また上田(名古屋市大)は抗CCR4抗体において、成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)のみならず、ホジキン病、皮膚T細胞性リンパ腫でのマウスを用いた薬効モデルを構築し、その抗腫瘍効果を確認した。カニクイザルの毒性試験は共同研究で進められており、第I相臨床試験に向け、全国的な組織作りを進めている。B02において橋田(京都大)はがん転移過程を定量的かつ高感度に追跡できる評価系の確立を目的として、マウスメラノーマB16-BL6細胞株ならびにマウス大腸癌colon26細胞に対し、ホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードしたpDNA(pCMV-Luc)(ピーディーエヌエー・ピーシーエムブイルシフェラーゼ)を導入した。これによりinvivoにおける癌細胞分布ならびに増殖を高感度かつ定量的に評価することを可能とした。B03において遠藤(群馬大)はBリンパ球表面抗原CD20に対する抗体を放射性ヨード(I-131)を用いて無菌的に標識し、難治性のB細胞悪性リンパ腫症例を対象として、I-131標識抗体のヒトにおける腫瘍集積性、画像診断としての有用性、安全性と体内動態を検討している。またこれによって悪性リンパ腫の治療効果を、FDG-PET、CT、MRIを用いて検討している。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 基盤研究により得られた新しい知見と技術を活用した新たながんの治療法の開発に向けて、分子標的療法、ドラッグデリバリーシステム、遺伝子治療、免疫療法などの研究が推進されている。特に、本年度は、血管新生阻害剤やペプチドワクチンの開発など十分な成果が上がりつつあるので、今後トランスレーショナルリサーチなどの方策を含めた臨床への展開が期待される。研究組織の運営にあっては、領域内、関連省庁との有機的な連携など様々な取り組みが検討されており高く評価できる。当該領域のみならず、他のがん領域研究において得られた知見・情報を駆使して、今後さらに革新的ながん治療法の開発と臨床応用が強力に推進されることが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --