研究領域名:種形成の分子機構

1.研究領域名:

種形成の分子機構

2.研究期間:

平成14年度~平成19年度

3.領域代表者:

岡田 典弘(東京工業大学大学院生命理工学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 19世紀半ばのチャールズ・ダーウィンによる進化論『種の起原』の出現により、「生物はどのようなプロセスを経て進化して来たのか?」という時間軸が初めて生物学に導入されたといえる。しかしながら、種が多様化してきたメカニズムは謎のままであったし、現在でも依然として謎である。この問題に対しては、これまで主に生態学的なアプローチで研究がなされてきたが、近年の分子生物学の爆発的な発達によって、種が分化し、多様性を獲得する過程、すなわち種形成の分子レベルでの機構解明の機がいよいよ熟してきたと考えられる。本研究領域では、これまで蓄積されてきた形態学、生態学、遺伝学的手法に基づく成果に加え、近年発達してきた分子生物学、分子発生学を駆使して、「種形成の分子機構」の解明を目指す。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究領域は7つの計画研究で構成されている。その内訳は、脊椎動物の進化のモデル生物である「シクリッド」、無脊椎動物の進化のモデル生物である「ショウジョウバエ」、植物のゲノム倍数化のモデル生物である「シロイヌナズナ・ムギ」を題材とする各2つの研究グループと、集団遺伝学を専門とする1グループである。いずれのグループの研究でも、生物の進化・多様化に対する自然環境が与える自然選択の大きさが議論されている。岡田らは、シクリッドゲノム研究の基盤作りを行うとともに、光環境がシクリッドの種の多様化に与える影響を遺伝子レベルで解明した。また、自らアフリカ・ビクトリア湖へ赴き、現地調査・サンプル採集を行う事により、集団レベルでの解析の準備を整えつつある。これは、日本で初めてのビクトリア湖への調査隊派遣である。今後、ビクトリア湖の生態学研究と分子生物学研究の融合から、数多くの研究成果が期待される。小熊らは、ショウジョウバエの生殖前隔離にかかわる「求愛歌」関連遺伝子の存在する染色体上の座位を第2染色体左腕と第3染色体右腕に特定した。長谷部らはMADS-box遺伝子の欠失が湿潤環境下での発芽能力に影響を与えることより、これらの遺伝子の種形成への関与を示唆する結果を得ている。荻原らは、ムギの異質6倍体形成が種の形成に大きく影響をしたメカニズムを解明するため、染色体ごとの遺伝子発現を検出するシステムを確立した。以上の成果を踏まえて種形成の分子機構解明を押し進めたい。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 非常にユニークな研究が開始されている。種形成の分子機構は生物学の最も基本問題であり、代表者は分子生物学者でありながらフィールドワークを進めて、この困難な問題に着実な成果をあげている。論文発表は着実に進んでいる。特にシクリッドについては興味ある成果がみられるのでその点を生かして推進することを勧める。一方で、魚、植物、ショウジョウバエと研究対象が大きく異なっており、個々の研究の連携を明確にすることが望ましい。研究費はほぼ有効に活用されている。今後の推進に関しては、学問的連携を深めるとともに、焦点を絞る必要がある。異なる研究対象について共通基本概念を打ち上げる努力が望まれる。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --