研究領域名:グリア-ニューロン回路網による情報処理機構の解明

1.研究領域名:

グリア-ニューロン回路網による情報処理機構の解明

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

工藤 佳久(東京薬科大学・名誉教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本研究の目的は脳機能がニューロン回路網のみではなく、これに密接に関与するグリア細胞との間に構成される時空間的相互情報処理機構のなかで生み出されていることを明らかにすることにある。そのために、次の三つの研究グループを構成した。(1)「(A01)神経伝達物質を介したグリア-ニューロン相互調節機構に関する研究グループ」ニューロンとグリア細胞の相互関係を電気生理学やイメージング法を用いて動的に解析し、その脳機能発現への意義を明らかにすることを目的とする。(2)「(A02)グリア-ニューロン相互認識による機能分子発現機構に関する研究グループ」ニューロンとグリアの相互認識および両者の機能相関に係わる機能分子の発現を明らかにすることを目的とする。(3)「(A03)グリア-ニューロン回路網を介した脳機能発現機構とその異常に関する研究グループ」グリア細胞とニューロンが織りなす回路網の中で作られている脳機能の実態、およびその異常によって発現する疾患を解析することを目的とする。これらの研究により、グリアとニューロンの間での情報処理機構が分子、細胞、形態、機能、行動のレベルで解明されると、これまでニューロン中心の研究によって解釈されてきた脳機能の発現から精神神経疾患の発症がグリア細胞機能を含めたさらに大きな情報処理システムの中での現象であることが理解され、脳機能解明とその疾患治療への新しい手がかりを与えることになる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本領域研究においては発足から二年余りの間に予想以上に研究は進展した。

1)グリア-ニューロン相互関係に関する研究成果:アストログリアから遊離されるATPが恒常的なシナプス抑制因子として機能すること、一方、グルタミン酸は条件が整った場合にのみアストログリアからニューロンへの促進因子として機能することを明らかにした。

2)グリア-ニューロン相互関係新解析法に関する成果:培養下のアストログリアとニューロンを別々に蛍光ラベルし、これを二光子励起顕微鏡によって立体的に解析することによって、シナプス周辺のアストログリアの形状のダイナミックな変動を解析することに成功した。また、グリア-ニューロン相互認識に関与機能分子、AMPA型受容体とグルタミン酸トランスポーターの小脳と海馬における発現をレプリカ免疫電子顕微鏡法により定量的に解析することに成功した。

3)研究材料に関する成果:ミクログリアの特異的マーカータンパク質Iba1に蛍光タンパク質を連動させたトランスジェニックマウスの作出に成功し、これを用いてミクログリアのダイナミックな機能を可能にした。

4)グリア機能異常による精神神経疾患モデル:GFAPの点変異によるアストログリア機能不全マウス、アレキサンダー病モデルマスを創成した。一方、精神神経症状を生ずるシスタチオニンβシンターゼ(CBS)遺伝子の変異によるホモシスチン尿症において、CBSが、ニューロンよりグリア細胞系譜で特異的に発現していることを見出した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 これまで神経系の中で脇役と考えられてきたグリアに着目し、ニューロンとの間で形成される回路網の情報処理機構を探るというユニークな視点のもと、求心力をもちよくまとまった研究組織が構築され、活発に研究が進捗しており、優れた成果が順調にあがりつつある。また海外でシンポジウム企画を実施するなど、わが国からの情報発信という点からも高く評価できる。今後、これまでにInvitroで発見された様々な知見がInvivoでどのような役割をもって発現しているかを解明する方向へ進展していくことが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --