研究領域名:水と生体分子が織り成す生命現象の化学

1.研究領域名:

水と生体分子が織り成す生命現象の化学

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

桑島 邦博(東京大学大学院理学系研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 この特定領域研究の目的は、「分子レベルの生命現象を第一原理より化学と物理学の立場から解き明かす」ことである。現在の生物科学分野のポストゲノム研究が、遺伝子ネットワーク解析やシステム生物学など、より複雑な生命現象の記述へと進んでいるのに対し、この特定領域研究では、分子レベルの生命現象を更に掘り下げ、そこにある化学と物理学を追究する。この意味において、本特定領域研究は「物質と生命の境界」を追求する学際的な取り組みであり、このような取り組みが化学と物理学における「新しいパラダイムの創生」と「新しい方法論の開拓」をもたらすのである。複雑な生命現象もその基礎にあるのは化学と物理学の原理であり、生物科学の究極の発展にも化学と物理学からの取り組みが不可欠である。特に、近年のヒトゲノムプロジェクトに代表される生物科学の急速な進展は、生物科学との境界における学際的な取り組みの必要性をますます切実なものとしている。
 このような学際的な研究領域では、化学、物理学、生物科学の広い分野にまたがって、それぞれの分野の研究者が研究に携わっており、また、若手研究者の国際的なレベルにおける活躍もますます盛んになりつつある。したがって、本特定領域研究の設定目的は、これら異なる分野の研究者間の有機的なつながりを高め、公募による新人研究者の積極的取り込みを行うことにより、学際的な本研究領域における研究の一層の発展を促すことである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本特定領域研究は、二つの研究項目A01「水溶液・溶媒和の化学」とA02「生体分子の化学」からなり、これらの研究項目間を横断する四つのコア研究プロジェクト、1「蛋白質水和とフォールディング」、2「水和構造と蛋白質機能およびダイナミクス」、3「蛋白質凝集体(アミロイド)形成と水の役割」、4「生体高分子の水和とダイナミクス」を実施している。班員はこれらのプロジェクトのいずれか(複数可)に参加している。特に最初の三つは計画研究班員が中核となって研究を推進し、これらに公募研究班員がゆるく結ばれているという二重構造を持つように配慮されている。
 既に上記コア研究プロジェクトでは、(1)「123残基の蛋白質αラクトアルブミンのフォールディング-アンフォールディング実験を計算機シミュレーションで再現し、現象の原子レベルでの記述に成功した」、(2)「時間分解熱力学量計測法という全く新しい実験手法の開発に成功し、これを用いてミオグロビンのリガンド解離経路の解明や光センサー蛋白質のダイナミクスの解明を行なった」、(3)「全反射顕微鏡とチオフラビンTを用いてアミロイドの一線維観測法を開発し、これによってアミロイド線維の形成反応を、リアルタイムでかつ、一線維レベルで観測することに成功した」などの成果が上がっている。四つのコア研究プロジェクトを中心として分野を横断した多くの自発的共同研究が進行しており、活発に研究が進められている。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 水とタンパク質の相互作用を分子レベルで解明しようとする本課題は着実に進展していると判断できる。「水溶液・溶媒和の化学」と「生体分子の化学」の各班における個々の研究は順調に進展し、それぞれの分野で個別の成果は多数得られ成果はあがっている。また、コア研究プロジェクトを有機的連携の取り組みとして設定して、意識的に班間の共同研究を促している努力は大いに評価できる。但し、実験とシミュレーションのつながりに代表されるように水とタンパク質をつなぐ研究成果については今後の課題であり進展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --