研究領域名:金属ガラスの材料科学

1.研究領域名:

金属ガラスの材料科学

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

井上 明久(東北大学金属材料研究所・所長)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 金属ガラスは金属元素のみ、あるいは金属元素が主成分であるにもかかわらず、従来型アモルファス金属に比べて、比較的遅い冷却速度でもガラス化する。また、この金属ガラスを昇温すると、明瞭なガラス転移を示して、過冷却液体状態を経て結晶化する。この金属ガラスは、円柱や板材などの三次元形状のアモルファスが得られ、その局所構造も特徴的なガラス構造を示し、構成される金属元素に起因する様々な新規な特性が期待される。このような金属ガラス特有の性質を利用して、超高強度材料、超弾性伸び材料、超ソフト磁性材料、低減衰音響材料などへの応用が考えられている。また、過冷却液体領域でのニュートン粘性を利用して、ナノ加工、ナノ転写、ナノ細線、ナノボールなどの加工技術への応用が考えられている。さらに、大過冷却液体からの相分離、ナノ結晶化、ナノ準結晶化を利用してナノ組織高機能材料への応用も期待される。このように、金属ガラスは新金属材料として発展する大きな可能性を持っている。そこで、本領域では、金属ガラスの究極の相安定化機構の解明と金属ガラスの変形・破壊メカニクスの解明という2つの研究課題を研究連携のための重点的研究課題に設定し、様々な分野が参加して、新金属材料としての将来展開のため、総合的基礎知識を集約・体系化し、「金属ガラスの材料科学」という新しい学問領域の確立を目指している。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 代表的な金属ガラスの1つであるZr基金属ガラスを共通試料として、放射光高エネルギーX線回折、中性子回折、高分解能電顕観察、放射光高分解能光電子分光、分子動力学シミュレーション等、各評価技術の専門家が共同し、数千個の立体原子構造モデルを構築した。その結果、主に金属結合で構成される金属ガラスでは、20面体のような密に原子が詰まったクラスターが特徴的に存在することを明らかにした。この構造的特徴が、結晶化の際の原子の再配列を抑制し、ガラス構造を安定化することを明らかにした。これにより、金属ガラスからのナノ準結晶相析出についても理解できた。この構造モデルを参考に、金属ガラスの変形・破壊のシミュレーションも着実な成果を挙げており、局所構造の不安定性予測とマクロな変形挙動のマルチスケールアナリシスが進展している。良好な機械特性を持つ金属ガラス製造のための傾斜鋳造法を応用した新しいプロセスも開発された。金属ガラスおよび過冷却液体の機械特性、粘性、成形加工性等に関する基礎研究も進展し、機械特性のデータベース化も着実に行われている。これらの研究成果は、本領域研究が主催、共催してきた10件の国内外会議での招待講演・口頭発表・ポスター発表をはじめ、290件の原著論文、18件の特許などで公表されている。これらの前半での研究成果に基づいて、後半では、金属ガラスを新しい材料として利用することを想定した場合に重要な、材料としての信頼性を理解し、確保するための研究を実施する。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 目標設定が明確であり、研究は計画通り着実・順調に進展している。領域全体のアクティビティーは極めて高く、質・量的にも十分な成果が出ており、かつ積極的な成果公表が行われている。特に、連携重点研究を設定して領域内の有機的連携を積極的に図っていること、若手研究者の育成に努めていることは高く評価する。今後の研究計画も適切である。国際的競争に打ち勝つため、高い水準で研究が進展することを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --