研究領域名:新しい環境下における分子性導体の特異な機能の探索

1.研究領域名:

新しい環境下における分子性導体の特異な機能の探索

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

高橋 利宏(学習院大学理学部・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 分子性導体は、無機半導体や強相関酸化物とならぶ、21世紀を支える第3の伝導性物質である。近年、超高圧下における新しい有機超伝導の発見、強磁場下における新しい伝導現象や磁場誘起超伝導の発見、分子エレクトロニクスへの関心の高まりなど、分子性導体の研究が新局面を迎えている。本領域では、(1)超高圧、超強磁場下の新しい電子状態の創成、(2)磁性と伝導の複合したπd系、人工構造の導入による新機能の開拓、を柱に、構成要素が有機分子であることに由来するこの系の特質を最大限に活用して、分子性導体の新しい可能性を開拓することを目的にする。
 本領域研究の意義は第1に、物性物理学と有機化学の両分野の文字通り「有機的」連携によって、「分子性導体」の新しい局面を発展させ、新しいパラダイムを切り開くことにある。このため、両分野から最先端の研究者を糾合し、密接な連携がはかれる研究体制を整備する。第2に、この分野では我が国の研究水準が極めて高く、世界をリードするアクティビティを維持している。これを維持し更に発展させることは、国際戦略的にも重要である。このため、意欲ある若手研究者の参加を積極的に募って研究を推進する。第3に、21世紀の分子エレクトロニクスの舞台として分子集合体を用いた堅実な研究が継続され、成果を上げつつある動向に対して迅速な対応をし、国際的なイニシャティブを先取ることはきわめて重要である。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 これまでのところ、研究は予想を超えて順調に推移しており、多くの成果を挙げることができた。
 まず、極限環境の整備を進め、10GPa級の六方アンビル超高圧装置を整備、完成をみた。これらの新しい環境において、新たな超高圧下超伝導体、新たな磁場誘起超伝導体、強磁場下の新しい電子相を発見した。新物質としては、インコメンシュレート構造をもつ超伝導体をはじめ、新たに3種の超伝導体、新しい物性を示す複数の新規π-d系が開発された。電極に電荷移動錯体を用いた安定なn型FET、有機FETを用いたフレキシブルなセンサーやスキャナーなどが作成された。多数の有機FET用の有機半導体が開発され、中でもn型で薄膜の移動度が1.86cm2/Vs(イッテンハチロクヘイホーパーボルトビョウ)に達するものが報告されたことは特筆に値する。新物性探索の面では「電荷秩序」状態について大きな進展があった。新しい光誘起相転移、異常な誘電応答、非線形伝導の観測に加えて、バルクの有機結晶が「サイリスター特性」を示すことが見出された。理論面では、電荷秩序相の中に発見された超伝導の発現機構の解明,および,それをもたらす電子状態が、「ニュートリノ型分散関係」をもつことを実験とタイアップして明らかにした。また、第一原理計算では、単一成分分子性導体の電子構造、超高圧超伝導体の圧力下のバンド構造の推定が行われ、実験と詳細な比較が行われた。
 これらの成果は、各研究項目、研究課題間の緊密な連携によるものであることを強調したい。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 各班において着実で多彩な研究成果を数多く得ている。物性研究と物質合成とのコンビネーションも概ね良好であり、異なる研究グループ間での連帯による新しい発展が見られる。物質開拓をベースとした分子エレクトロニクスへの新たな展開を期待したい。また、若手研究者の育成についても目覚しい成果を挙げている。全体としては、研究計画に沿って順調に研究が進展しており、更なる発展が期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --