研究領域名:充填スクッテルダイト構造に創出する新しい量子多電子状態の展開

1.研究領域名:

充填スクッテルダイト構造に創出する新しい量子多電子状態の展開

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

佐藤 英行(首都大学東京都市教養学部理工系・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 希土類元素中のf電子は、時に伝導電子と混成して新奇な現象を発現するが、そのような現象をもたらす物質の多くはf電子を1つ含むCe(セリウム)系に限られてきた。複数のf電子が混成した場合、本質的に新しい振舞いも予言されているが、これまでその確認には成功していない。「複数のf電子と伝導電子との混成が初めて可能にする新現象」(量子多電子状態)を調べることは、電子が結晶中で示す量子状態の統一的理解を得るためには不可欠である。
 本特定領域研究の目的は、充填スクッテルダイト化合物の育成から出発して、その物性評価を系統的に行なうことにより、これまで不可能であった、「量子多電子状態」の多様な振舞いを探索し、その機構を解明することである。この物質系は、(1)同じ結晶構造中の同じ希土類イオン(Pr(プラセオジウム)、Sm(サコリウム)、など)でありながら、他の組み合わせ(他の2種類の構成)元素を置換することにより、極めて変化に富んだ新奇な振舞いを示すこと、(2)伝導電子とf電子間のこれまでになく強い混成効果を可能にさせる結晶構造を持つこと、などの最近の情報に基づき、量子多電子状態の統一的理解への大きなブレークスルーとなりうる物質として選択した。また、本研究において、物質の振舞いの新しい機構を見出し理解することは、新機能材料開発の指針を与える上でも極めて重要と考えられる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本領域は、試料育成の困難さと未成熟な理論研究の状況を考慮に入れて研究期間を5年とし、中間評価時点に理論計画班を立ち上げることとした。
 二つの計画班が高圧下育成装置の立ち上げを進め、それと並行して、この両班が中心となり既存の手法により育成された試料を測定班に供給した。結果として、多くの発見(PrOs4Sb12(プラセオジウム・オスミウム・アンチモン化合物)の磁場誘起四重極秩序相、PrRu4P12(プラセオジウム・ルテニウム・リン化合物)の圧力誘起超伝導相、PrFe4P12の高磁場新秩序相、SmRu4P12(サマリウム・ルテニウム・リン化合物)の多極子秩序相、SmOs4Sb12の磁場に鈍感な重い電子状態など)と機構の解明が行なわれた。
 平成16年度末より、二つの高圧下育成装置が稼動を開始し、常圧下では不可能であった非充填系RhP3等への希土類元素の充填が可能になり、スクッテルダイト系として最高の超伝導転移温度(TC~15K(ティーシー約15ケルビン))を達成するなど、育成可能な試料の範囲が大幅に拡がっている。一方、公募研究を中心として理論研究者が充実して来ており、理論研究の更なる体制整備や測定班との強固な連携を目指し、平成18年度より計画班を発足できる状況が整った。
 現時点で、「複数のf電子に由来する特異な多体効果」、「特異な結晶場」、「多極子相互作用」、「カゴ状分子中原子のオフセンター運動」など、この物質系を特徴づける重要な要素が抽出され、領域研究者が連携して系統的に理解を進める段階に入っている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 スクッテルダイトという結晶構造に特有のカゴ状フレームに種々の希土類イオンを充填させ、複数f電子による新しい量子現象を探求しようという独創的な研究。精緻な物性実験に欠かせない良質結晶の育成技術をA01,A04班が確立し、それを利用して電子系、格子系の専門家を擁する他班がf電子に由来する様々な新現象を見出しており、領域内での緊密な連携を通して順調な進展を遂げている。研究成果の質も高く、磁場を加えても軽くならない重い電子系、圧力誘起超伝導、磁場誘起の四重極秩序相の発見など、多くの特筆すべき結果を得ている。本研究は競合する海外のグループと比べても優位と言える。理論研究者から成るA07班の新設は妥当で、研究の更なる進展に寄与すると思われる。今後、充填スクッテルダイトで見出された興味ある現象の統一的な理解がなされる事を期待している。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --