研究領域名:サブミリ波帯からテラヘルツ帯に至る宇宙観測の開拓

1.研究領域名:

サブミリ波帯からテラヘルツ帯に至る宇宙観測の開拓

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.領域代表者:

福井 康雄(名古屋大学大学院理学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 未開拓のサブミリ波帯を本格的に観測し、宇宙における天体形成のメカニズムを先導的に解明することが本領域の目的である。そのために従来にはない量と質でサブミリ波帯の宇宙観測を実施し、地上観測の限界に挑む波長300ミクロン以下のテラヘルツ帯を開拓することが重要である。一方、宇宙の各階層を網羅し全面的なサブミリ波観測を開花させるために、初期宇宙の銀河・星団の形成メカニズムの解明、銀河系を含む局所群における原始星・原始星団、そして、新たな星間物質相の観測を総合的に展開することが必要である。
 本特定領域研究の5つの計画研究は、サブミリ波からテラヘルツ帯に至る4基の高精度電波望遠鏡と中間赤外線望遠鏡1基を使用し、サブミリ波帯・テラヘルツ帯高感度受信機の開発を行って、南米チリ共和国のアタカマ高地を中心に観測を行うことを計画している。5年間の研究期間内に、中性炭素原子、一酸化炭素分子の広範な対象にわたる観測データが取得され、銀河形成の本質的な物理・化学過程が明らかになると期待される。
 これらの観測データを総合して解析し、以下の課題に取り組む。
 1)銀河、星団、惑星系等の天体形成機構の解明
 2)星間空間における新物質の検出
 3)100億光年かなたの遠方銀河の重元素の検出
 本特定領域研究によってもたらされるであろう組織的かつ圧倒的な観測データをもとに、上の問題の解決に向けて本質的な進展が得られるものと考えられる。その成果は、宇宙の起源を解き明かす人類の営みの中で大きなインパクトを残すであろう。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 サブミリ波での宇宙観測を推進すべく、観測装置の開発・運用・設置は順調にすすんでおり、学術的成果もマゼラン雲の分子雲の研究などで成果があがり、領域内の研究の有機的組織化がすすんでいる。
 国内では受信機開発体制の構築がすすみ、東京大にクリーンルーム等の施設が完成して素子開発が行われ、すでに良好な電流電圧特性を確認している。その他の検出器と望遠鏡の開発も名古屋大、大阪府立大、京都大でほぼ予定通り進行している。
 南米チリ・アタカマ高地(標高4800m)では、ASTE(アステ)10メートルサブミリ波望遠鏡が350GHz帯で本格運用されており、NANTEN2望遠鏡は同地に設置を完了して2005年内に観測を開始する見込みである。18cm中性炭素望遠鏡は、すでに同地で銀河面掃天を実施している。
 科学面では、銀河系ーマゼラン雲、系外銀河について、先端的なサブミリ波帯の星間雲の観測が進められた。近傍銀河では、中心部のみならず円盤部でのサブミリ波分子輝線検出に初めて成功し、マゼラン雲では星団形成の前駆体と見られるガス塊を発見し、銀河系内においてはTeVガンマ線超新星残骸に付随する高励起ガスが検出された。これらは、サブミリ波帯放射の特徴である高励起星間ガスの存在を示し、新たな高温高密度相の解明の一歩を記すものである。
 情報発信と研究組織構築のために、大型研究集会を3回開催し、サブミリ波天文学を主題とする一般向け書籍を上梓した。これらの活動の総和として、研究者の連携がサブミリ波での研究を軸として組織化されつつあり、領域目標が着実に達成されつつある。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 特定領域研究として着実に進展しており、サブミリ波領域での宇宙観測において、優れた成果が得られている。特に、天体形成での分子輝線イメージングに関する成果は国際的に高く評価されている。テラヘルツ波領域の研究に関しては、デバイス作製を含む検出システムの開発が順調に進んでいる。研究組織としても有機的な連携のもとに、効果的に研究が進められている。今後は、テラヘルツ波領域の観測の進展を含めて、高温領域の宇宙論などに新たな展開が期待できる。以上のことから、このまま推進すれば良いと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --