研究課題名:磁気刺激および電流分布イメージングによる脳機能ダイナミックスの研究

1.研究課題名:

磁気刺激および電流分布イメージングによる脳機能ダイナミックスの研究

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.研究代表者:

上野 照剛(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ヒト脳機能の非侵襲的計測法として、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)や脳磁図が用いられている。これら非侵襲脳機能計測法の進歩により、脳の機能局在が明らかになりつつある。しかし、脳機能のダイナミックス、すなわち、ミリ秒単位での機能部位の変化や脳内神経ネットワーク相互の関連性をこれらの手法で調べるには、多くの困難を伴う。fMRIは空間分解能は比較的に優れているが、時間分解能は数十ミリ秒~数百ミリ秒であり、脳の活動部位のダイナミックな変化を1ミリ秒の時間分解能で追うことが出来ない。一方、脳磁図は時間分解能に優れているが、活動部位の空間的な広がりや分布などを正確に推定することが難しく、神経回路ネットワークの空間的かつ時間的関連を調べることが難しい。また、高次脳機能研究では、何らかのタスクを行い、それに応じた脳の反応を調べることが行われているが、このような手法では、神経集団相互の時間的かつ空間的なネットワークを捉えるには限界がある。これに対して、外部から、空間的かつ時間的に制御した外乱を脳神経に与え、神経情報の伝達を制御しながら脳機能のイメージングを得られれば、脳機能ダイナミックスがより明らかになるであろう。本研究は、脳機能ダイナミックスの解明のため、局所的磁気刺激による脳神経活動の制御、及び新しい手法による神経活動の電流分布イメージングや脳磁図・脳波計測により、高時間分解能、高空間分解能を有する新しい脳機能ダイナミックスイメージング法を構築することを目的とした。

(2)研究成果の概要

 1.磁気刺激と脳波計測を同時に実施できるシステムを構築し、磁気刺激により生じる脳活動の時間的、空間的な変化を明らかにした。また、右前頭葉の磁気刺激により連想記憶が妨害されうることを見出し、磁気刺激を用いて脳神経活動を制御できることを実証した。2.脳の高頻度磁気刺激により、海馬における長期増強が促進されることや、海馬が虚血耐性を獲得することを明らかにした。さらに、高頻度磁気刺激は、ニューロンの薬理学的な損傷に対して細胞保護効果を発揮しうることを示した。3.ニューロンの電気活動により発生する磁場が、磁気共鳴イメージングを用いて検出可能であることを、理論と実験の両面から示した。このことにより、高時間分解能、高空間分解能を兼ね備えた新しい脳機能イメージング法が実現した。さらに、異方性を持った生体組織の導電率分布を、磁気共鳴イメージングを用いて可視化する手法を開発した。4.強い静磁場が、生体高分子や細胞の配向秩序、骨形成、神経興奮過程などに影響を与えることを明らかにし、生体に対する磁場効果についての知見を蓄積するとともに、磁場を用いた再生医療の端緒を開いた。以上の成果から、磁気刺激や電流分布イメージングを用いて、脳機能ダイナミックスを可視化するための新しい技術体系が確立されるとともに、磁気刺激や強静磁場が脳機能や細胞の活動に及ぼす効果に関して、新しい知見が得られた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 磁気刺激による脳の反応に関して、MRIによる電流分布イメージング化を組み合わせた独創的な研究手法を駆使して着実にデータを蓄積し、いくつかの新しい結果を得ている。脳に対する磁気刺激という難しいテーマであるが、期待された研究成果が上げられ、目的はほぼ達成されたと評価できる。観測結果に基づいた脳機能の機構解明により、総合的理解へ進展することを期待する。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --