研究課題名:接着装置に依存した新しい細胞行動制御シグナルの探索

1.研究課題名:

接着装置に依存した新しい細胞行動制御シグナルの探索

2.研究期間:

平成15年度〜平成18年度

3.研究代表者:

竹市 雅俊(独立行政法人理化学研究所発生再生科学総合研究センター・センター長)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 カドヘリン接着分子は、カテニンと総称される細胞質因子(α−,β−,p120−カテニンなど)と複合体を形成し、さらにカテニンは様々な細胞質内分子と相互作用しているが、この分子間相互作用について二種類の異なる役割が想像されている。1)カドヘリンを一種のリセプターとして、細胞内シグナル生成のために働く、2)カドヘリン接着機構の制御のために働く、である。現段階では、この2つの可能な役割は明快に分離できてはおらず、どちらをも視点に入れた様々な研究が展開されている。本研究では、カドヘリン・カテニン複合体に結合する種々の分子の機能についてさらなる理解を深めながら、それらの相互作用によって生じる未知のシグナル系、それによって制御される新たな細胞行動の様式を探る。具体的には以下に挙げた項目の研究を行う。
 1.カドヘリン系と微小管の相互作用の研究
 2.カドヘリンとカルシウムポンプの相互作用の研究
 3.αN-カテニンによるシナプス動態・細胞移動の制御
 4.細胞間接着装置形成におけるカドヘリン分子のダイナミクスの研究
 5.新たに同定したRhoGEFの機能研究
 6.Fatカドヘリンの機能の研究
 7.大腸がん細胞におけるカドヘリン活性抑制機構の解明
以上の研究が達成されると、多細胞動物の体がどのような仕組みによって形成されるかという問題を解明するための分子的基盤が整うと共に、癌転移などの治療法の解明につながる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 これまでの研究により、特に以下の2項目について成果が上がった。

1)αN-カテニンによるシナプス動態の制御
 αN-カテニンのシナプス形成における役割を明らかにするため、スパインの動態をタイムラプス映像により解析した。正常神経細胞のスパインは動的な構造であることが知られているが、αN-カテニン欠失スパインはその動きがいっそう激しく、スパイン頭部において糸状仮足が頻繁に伸長・収縮を繰り返した。逆に、αN-カテニンを過剰発現させるとスパインの数が異常に多くなることなどが観察され、αN-カテニンがスパイン及びシナプスの安定化に寄与することが明らかになった。

2)Fatカドヘリンの機能の研究
 カドヘリンスーパーファミリーに属するFatは、ショウジョウバエの腫瘍抑制遺伝子として発見されたが、その分子的機能は未解明であった。私達は、脊椎動物Fat1を取り上げその機能解析を行った。まず、Fat1が細胞境界に分布することを見つけた。ただし、通常のカドヘリンが細胞接着の頂端部にもっとも強く濃縮するのに対し、Fat1はより下方に集まる傾向にあった。次に、RNAi法によりその発現を抑制した結果、細胞間接着が部分的に壊されると同時に、細胞内アクチン骨格系が著しく破壊された。Fat1の細胞質ドメインには、Ena/VASPタンパク質群に対する結合配列が見つかり、これがアクチン重合活性を示すことも確かめられた。以上の結果から、Fat1は、アクチン重合の促進活性をもつ新たな細胞接着制御因子であることが明らかになった。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 独創性の高いカドヘリン接着装置の研究がさらなる広がりをみせ、研究の進展は順調であり、期待どおりの成果が得られている。神経細胞の連結部であるシナプスの研究では、aNカテニンが安定化に寄与していることを発見した。新たに同定したRhoGEFの機能解析では、この分子が細胞周縁部に分布し、Cdc42分子を介してアクチンを制御していることを明らかにした。さらに、Fat1カドヘリンは糸状突起による接着を制御していることを示した。細胞間接着構造については、これまで静的であると考えられてきた細胞間の接着においてカドヘリン分子が方向性を持って移動していることを発見した。この発見は細胞接着装置の研究における新たな展開を予感する重要な発見であると評価した。若い研究者の育成にも成果がみられ、さらなる研究の進展が期待できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --