研究課題名:インスリン分泌システムの形成機構とその破綻

1.研究課題名:

インスリン分泌システムの形成機構とその破綻

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

清野 進(神戸大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 膵β細胞から分泌されるインスリンは、哺乳動物において生命維持に不可欠なホルモンである。インスリン分泌はグルコースホメオスタシスの維持の中心的役割を果たし、その破綻により様々な病態が引き起こされる。これまで、インスリン分泌の研究は膵β細胞におけるシグナル伝達を担う個々の要素の解明に焦点が当てられてきた。しかし、細胞レベルで個々の要素がどのように機能統合され、さらに個体レベルで、膵β細胞が他のシグナル伝達系とどのように相互作用しインスリン分泌を制御するのか、即ち、システムとしてのインスリン分泌機能形成機構は依然として不明である。本研究では、
課題1)膵β細胞発生・分化過程におけるインスリン分泌機能発現機構の解明
課題2)成熟膵β細胞におけるインスリン分泌機能統合機構の解明
課題3)個体レベルにおけるインスリン分泌制御機構の解明
課題4)インスリン分泌システムの破綻による病態解析
を通してインスリン分泌システム形成機構の全容とその破綻による病態を解明することを目的とする。
 本研究により、医学分野では糖尿病の原因解明、膵β細胞再生医療の基盤構築、膵β細胞を標的とした新たな創薬の基盤構築など糖尿病の根本的解決への大きな貢献が期待される。また生物学分野では開口分泌の基本型の確立、細胞内シグナルの統合機構の解明、グルコース感知機構の解明などシグナル伝達、イオンチャネル、生理活性物質の分泌機構などの分野を大きく進展させることが期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

課題1)膵β細胞発生・分化過程におけるインスリン分泌機能発現機構の解明

  • マウス膵島特異的cDNAライブラリーを作製し、これをもとに膵島特異的データベースの構築およびマイクロアレイの開発を行った。
  • 膵外分泌組織からインスリン分泌細胞を誘導する方法を確立し、インスリン分泌細胞が腺房細胞に由来することを世界で初めて直接証明した。

課題2)成熟膵β細胞におけるインスリン分泌機能統合機構の解明

  • 分泌調節分子Noc2はRab3と相互作用し、膵β細胞においてGi/o(ジーアイオー)シグナルを阻害することによって、インスリン分泌を維持することを見出した。
  • ATPセンサー、cAMPセンサー、Ca2+(カルシウムイオン)センサー分子が相互作用することによりインスリン分泌における刺激・分泌連関をfacilitateするモデルを提唱した。
  • 分泌シグナルを担う全く新しいcAMPcompartmentモデルを提唱した。

課題3)個体レベルにおけるインスリン分泌制御機構の解明

  • 代表的な消化管ホルモンであるGLP-1とGIPが異なる機序によりインスリン分泌を増強することを明らかにした。
  • cAMPシグナルとグルコースシグナルのinterplayがグルコース応答性に重要であることを提唱した。

課題4)インスリン分泌システムの破綻による病態解析

  • 脳に発現する転写因子Otx3の遺伝子破壊により中枢神経における代謝制御が破綻し、著明な痩せが生じることを明らかにした。
  • 糖尿病候補遺伝子のSNP解析により、特にSUR1と強い相関が認められた。

これらの成果はPhysiol.Rev.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,Diabetes,J.Biol.Chem.,J.Physiol.,Am.J.Physiol.などの学術誌に発表し、科学新聞等に掲載された。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 当研究は膵B細胞の発生分化におけるインスリン分泌機能の解明、細胞内シグナルの機能統合、臓器間相互作用によるインスリン分泌機能の制御、インスリン分泌の破綻による病態解析を解決すべき課題とし、これら当初の目的に沿って着実に研究は進展している。また、マウス膵外分泌細胞からインスリン分泌細胞への分化誘導という新たな試みも順調に進んでいる。新たな転写因子Xも同定しており、多くの新しい知見も得られている。この転写因子Xは大変興味深く、今後インパクトのある成果が期待される。研究成果の公表も積極的に進められ、研究組織についても研究代表者を中心にまとまっており、現状では特に問題は見られない。研究費についても成果から分かるように有効に活用されている。今後の研究計画も適切であり、現行のまま研究を推進すべきと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --