研究課題名:ミトコンドリアの生合成と形態制御の分子機構

1.研究課題名:

ミトコンドリアの生合成と形態制御の分子機構

2.研究期間:

平成14年度〜平成18年度

3.研究代表者:

三原 勝芳(九州大学大学院医学研究院・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ミトコンドリア(以下Mtと省略)は外膜、内膜の2枚の膜に囲まれた、好気的ATP合成に必須のオルガネラであり、構成蛋白質の99%は細胞質で合成され外膜と内膜の輸送装置(TOM複合体、TIM複合体)の働きによって目的のコンパートメントに輸送される。一方MtのDNAには内膜の呼吸鎖の成分である13種類(哺乳類)の疎水性蛋白質がコードされており、これらは内膜のエクスポート装置によってマトリクス側から内膜に挿入される。Mtはまた融合と分裂を介して分化や環境に応じたダイナミックな形態変換を行っている。さらに膜間スペースからシトクロムcやAIFなどのアポトーシス因子を放出してアポトーシスを調節している。本研究課題においては、オルガネラのインターフェースとして様々な機能が集積されている膜に焦点をあて、様々な配向性をとるMt膜蛋白質の標的化と蛋白質輸送装置による蛋白質の膜への挿入、外膜を介したアポトーシス因子の輸入・輸出機構、ならびにMt膜の分裂・融合の制御の機構を明らかにする。具体的には、【膜蛋白質の組み込み】(1)Mt内局在の異なる膜蛋白質の標的化と組み込み、(2)Mt外膜挿入装置と内膜挿入装置の解析、(3)Mtゲノムにコードされる蛋白質のマトリクスから内膜への組み込み、【アポトーシス因子の輸送】膜間スペースへのアポトーシス因子の輸入・輸出機構、【Mt分裂・融合】Mtの形態制御に関わるGTP結合蛋白質(Fzo1、Dnm1、Mgm1)に注目し哺乳類におけるMt膜の融合分裂の機構を明らかにする。
 Mt研究は酵母を用いた解析が進んできたが、哺乳類には特有な輸送装置が存在し、また形態面でも分化に応じて形・数・位置を変化させる現象がある。哺乳類の細胞機能調節に関わるMtの役割(例えばアポトーシス)が注目されている現在、哺乳類を対象にした基礎研究が是非とも必要であり、これによってMt膜を介した細胞機能調節の新しい原理が見出されることが期待できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 【膜蛋白質の標的化と膜挿入機構】(1)ラットTOM複合体精製をし複数の未知の構成成分を同定しクローニングした。(2)TOM輸送装置の主役TOM40の組み替え体をチャネル活性と前駆体結合活性を持つ状態で精製することに成功した。この標品はβバレル構造に富み、電子顕微鏡で約20オングストロームの孔を持つ粒子として観察される。さらにTOM40のC-末側半分がチャネル活性と前駆体蛋白質結合に必要十分な領域であることを明らかにした。(3)膜内配向性を異にする外膜蛋白質、TOM70(N-末アンカー)、TOM5(C-末アンカー)、TOM22(分子内アンカー)、PBR(PeripheralBenzodiazepineReceptor;5回膜貫通型)について標的化シグナルの特性と輸送の道筋を明らかにした。(4)哺乳類Mtの新規な前駆体蛋白質受容体rTom36(アールトム36)を見出した。rTom36(アールトム36)は細胞質因子MSFによって運ばれた前駆体蛋白質の受容体として機能する。(5)内膜のポリトピック膜蛋白質preABCme(プレエービーシーエムイー))(ABC-transporter)の輸送を解析した。この蛋白質は分子内にER輸送シグナルを持つが、N-末端に存在する強力なMt輸送シグナルによってERへの標的化が回避される。(6)内膜エクスポート装置の一員であるpreOxa1(プレオクサワン)についてその標的化と膜挿入の解析を行った。【アポトーシス因子の輸出入】膜間スペースに局在する因子AIFがI型配向性をとる内膜蛋白質であること、アポトーシスシグナルに応答するプロテアーゼによって膜間スペース側で切断された後に細胞質に輸出されることを見出した。【Mt融合・分裂】(1)Mt融合に関わる外膜のGTPase(ジーティーピーエース)Mfn1、Mfn2の特性を解析し、その機能を調節する新規因子MIB(Mitofusin-bindingprotein)を見出した。(2)内膜に局在するGTPaseOpa1(ジーティーピーエースオーパワン)は複数のプロセッシング状態をとってミトコンドリア形態を調節しているが、このプロセッシングに関わるプロテアーゼを同定し、プロセッシングが細胞機能調節に果たす役割を明らかにした。(3)Mt分裂に関わる細胞質Drp1のミトコンドリア外膜受容体Fis1を同定し、その機能領域を明らかにした。(4)Mtのinvitro(インビントロ)癒合測定系を確立した。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本特別推進研究は、ミトコンドリアの膜蛋白質の動態に着目して、その生合成と形態制御の分子機構を明らかにすべく着実に研究を進展させている。3つの研究目的に沿って研究体制を構築し、それぞれ機能的に活動して優れた成果を上げている。特に、新しい分子の同定およびその動態調節機構など新しい発見などオリジナリティーの高い点が評価できる。今後は得られた知見の生理学意義付けを念頭に置きながら、研究対象の焦点を絞り、さらなるインパクトのある研究の展開を期待する。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --