研究課題名:オートファジーを支える膜動態の解析に基づく細胞内膜形成機構の解明

1.研究課題名:

オートファジーを支える膜動態の解析に基づく細胞内膜形成機構の解明

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

大隅 良典(自然科学研究機構基礎生物学研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 全ての生命活動はタンパク質の合成と分解のバランスの上に成り立っている。本研究は細胞内における主要な分解経路であるオートファジーの分子機構とその生理的役割を明らかにし、その特異な膜動態の解析を通じて細胞内の膜形成機構に関する新しい概念の創出を意図するものである。
 申請者は過去16年に亘る研究から、オートファジーに関わる16個のATG遺伝子を分離同定し、それらが4つの全く新規の反応系を構成することを明らかにしてきた。その半数は2つのユビキチン様タンパク質修飾系をなしており、タンパク質結合体、脂質結合体を形成する。あとの2つはそれぞれ、タンパク質、脂質キナーゼ複合体を構成している。その詳細な機構の解明を本研究の第一の目的とする。具体的には、2つのユビキチン様タンパク質結合反応の解明を進め、4つの反応系の細胞内での空間的、時間的な相互関係を明らかにし複雑な反応系の必然性を解明する。
 第2の目的は、オートファゴソーム形成過程を明らかにすることにより、細胞内の新規の膜形成機構に新たな提言をすることにある。このために、Apg8のPE化、PI3Pを指標として膜内分子の細胞内動態の解析を進める。
 第3にAtgホモログの解析を通じて酵母及び高等動植物のオートファジーの生理的意義を明らかにする。
 オートファジーは全ての真核細胞に普遍的な生理機能であり、その機構の解明は、タンパク質分解のみならず細胞を真に理解することに大きな貢献をする。オートファジーの理解は現在注目されつつある病態との関連からも重要である。また、この領域で世界に発信するセンターの役割を果たすことは、大きな波及効果を持つものである。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 特別推進の課題として採用され、2年余りが経過したが、計画は順調に推移しており、特段の変更は要しない。
 この間オートファジーは多くの研究者に認識され、一流国際誌に毎号のように関連論文が掲載される状況になってきた。オートファジーがますます多様な生命現象に関わっていることが明らかになりつつある。しかし、本研究課題が目標とする分子機構の解明という視点を持つ研究はそれほど増加してはいない。
 本研究課題の目的は、オートアジーに関わる分子装置の解明と、その解析から細胞の基本的な機能を理解することである。
 そのためにオートファジーにおける最も重要な過程であるオートファゴソーム形成に関わる17個のAtg因子の機能解析を進めている。この期間で個々のタンパク質の関する知見が蓄積したが、これら17個のAtgタンパク質は互いに相互作用しながら膜形成に関わっており、システムとして理解することが必須であることが明らかとなった。この間の主なる成果は全てのAtgタンパク質のオートファゴソーム形成の中心的な役割を持つPAS形成に関する系統的な解析が完了し、そのネットワークが明らかとなった。4つの機能単位間の関係が明らかとなり、それらをつなぐAtg因子の理解が進んだ。2つのユビキチン様反応系のinvitro(インビントロ)再構成系が確立し、両者の関連に関する重要な知見が得られた。オートファジーが選択的な分解系として機能していることを示すことに成功した。高等動植物においてオートファジーの進行を可視化することに成功し、ノックアウト個体の表現型の解析が進んだ。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 研究代表者がオートファジー遺伝子群(ATG)を発見して以来、オートファジーに対する世界的な関心が急速に高まってきた。その中で分子機構と生理的機能の解明に重点をおいた独創的な本研究は着実に進展し、世界のオートファジー研究をリードする立場にある。進行中の個々のATG遺伝子の機能解明は時間のかかる作業であるが、既にAtgタンパク質を可視化する系の開発に成功している。全てのAtg遺伝子の機能の解明が終了すれば、オートファゴソーム形成に関するシステム全体の理解に大きく貢献することが予想される。オートファジーはすべての真核生物に普遍的な生理機能であり、この研究を遂行することにより、真核生物の細胞機能の本質にも迫ることができる。研究組織にも問題はなく、このまま研究を推進していくことにより今後も順調な展開が期待できると判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --