研究課題名:脂質メデイエーターと脂質メタボロームの総合的研究

1.研究課題名:

脂質メデイエーターと脂質メタボロームの総合的研究

2.研究期間:

平成15年度~平成19年度

3.研究代表者:

清水 孝雄(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ポストゲノム時代の研究課題の一つは低分子代謝物(メタボライト)の網羅的、動的解析であると考えられ、この学問をメタボロミックスと呼んでいる。本研究課題では、この中でも生命活動に必須と思われる脂質分子に焦点をあてて、以下の内容で研究を行う。第一は脂質メディエーター(脂質シグナル分子)の機能を明らかにするために、各種の遺伝子欠損マウスを樹立し、その表現形を解析することである。また、新規の酵素や受容体分子を探索することも含まれる。第二は、オーファン受容体と呼ばれる多数のリガンド未知のGタンパク共役型受容体の脂質リガンドを探索し、その生物機能を明らかにすることである。第三は生体膜リン脂質の動的な代謝変動を解析する手法とデータベースを確立することである。これにより、細胞の刺激に応じた膜成分の変化や脂質メディエーターの産生プロファイルを明らかにすることが出来る。本研究は脂質メタボロームの中核をなす研究であり、質量分析計の生データを入力し、これから詳細な脂質構造、分子種を同定する「検索エンジン」の開発も含まれる。これらの研究を総合的に進め、脂質分子が生体の機能とどう関わり、その代謝破たんがいかなる疾患と結びつくことを明らかにしていくことは基礎的生命科学の研究として重要であるだけでなく、創薬、診断法、薬物動態の解析など幅広い応用が期待される。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 三つの課題について以下の様な研究を進め、この2年半でNature,Immunity,JournalofExperimentalMedicineなどを初めとする43編の論文として公表した。

(1)脂質メディエーター遺伝子欠損マウスの解析
細胞質型ホスホリパーゼA2α(cPLA2α)欠損マウスは関節リウマチ、多発性硬化症などのアレルギー性疾患に重要な役割と果たすことが明らかとなった。また、cPLA2α下流の分子を同定する目的で各種の受容体欠損マウス(PAF受容体、ロイコトリエンB4受容体)が作られ、それぞれの表現形の解析からこれらの脂質メディエーターが単なる症候的なメディエーターであるだけでなく、免疫成立の本質に関わる重要な分子であることがわかった。また、これ以外の受容体欠損マウスも作製過程であり、さらに、cPLA2ファミリーの新規分子を数種類同定し性質を報告した。

(2)オーファン受容体脂質リガンド探索
20数種類の受容体を細胞膜に正しく発現させた細胞株を用いて天然の脂質材料を用い、質量分析計を駆使する方法で、新規に4つのリガンドを同定した。受容体欠損マウスなどを作製し、個々の分子の機能を今後明らかにしていきたい。

(3)脂質メタボロームの研究
14種類の脂質メディエーターを10分以内に同時測定するシステムを構築し、病態サンプルなどでの一斉プロファイリングを行っている。さらに、膜のリン脂質を網羅的、系統的に同定する手法を確立した。今後、質量分析のデータから直接脂質同定に進める検索エンジンの作製とその元になるデータベースの確立が課題である。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本特別推進研究は、脂質メディエーターの生理的意義の解明と網羅的解析を精力的に進め、着実に研究を進展させている。特に、新しいリガンドを4分子発見したことは高く評価できる。研究組織も効率よくまとめられ、研究費の使用も適切である。一方、ノックアウトマウスを用いた解析の成果については今後どう展開するか、そして網羅的解析については他のプロジェクトとの連携をどうするか、という点については的確な判断が必要である。今後、研究についてはそのまま継続しつつ焦点を絞り、積極的な研究発表を行うことにより、さらなる発展を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --