研究課題名:タンパク質機能の1分子デザインとシステム構築

1.研究課題名:

タンパク質機能の1分子デザインとシステム構築

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

石渡 信一(早稲田大学理工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 天然にデザインされたタンパク質の機能は、3次元的なアミノ酸配置として組み込まれており、そこに働く分子間力と熱揺らぎ(環境)の織りなすダイナミクスによって実現している。機能性タンパク質分子機械の仕掛け(機能発現のための設計原理である分子デザイン)を、1分子と分子集合体のレベルで明らかにしたい。我々は今、1分子イメージング・機能解析・操作のための独自の顕微技術を手にしており、タンパク質の機能発現に伴うnmの動き(構造変化、ブラウン運動)とサブpN(ピコニュートン)の力(エネルギー)を時々刻々1分子レベルで記録・解析することができる。そこで、タンパク質機能が、物理的・化学的環境という制約の中で、どのようにデザインされているか(非生物を支配する物理・化学法則をどのように利用して生物固有の性質を生み出すか)を、タンパク質の"動きと力"を指標に時空間的に記録し解析する。この目的のために力学酵素(ミオシン、キネシンなどの分子モーター)、細胞骨格(アクチンフィラメント、微小管)やシャペロニン、心筋培養細胞などを取り上げる。動き(結合・解離)を1分子イメージングし、力を計測して機能素過程を解明する一方、力を加えて機能(酵素作用)を変調・制御する。さらに、生体ナノマシンを集積し、高次の生体機能を発現させる。天然の生体システムの構成要素を交換し、生物固有の構造を選択的に解体・再構築することによって、生体構造の形成メカニズムと生体機能の分子メカニズムを明らかにし、それらを自在に制御するための手法を追究する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 最近一年間の主な研究成果は、1)ミオシン5及び6とアクチンフィラメント間の1分子結合破断力を、幾つかのヌクレオチド状態及び様々な負荷速度・方向で計測し、歩行メカニズムに関わる新しい知見を得たこと(Yale大学との共同研究)、2)A帯滑り運動(Bio-nanomuscle)系を確立し、滑り運動機構を支持する基礎データを得たこと(本年Biophys.J.に発表:同号NewandNotableに第三の実験系として評価された)、3)多分子モーター系の特徴であるSPOC(スポック)(自励振動)現象の分子メカニズム解明に向けて、筋原線維の顕微機能計測法・外部力学刺激法・高速溶液交換実験法を開発・導入し、新しい運動特性を解明したこと、4)様々な動物心筋収縮系を用いてSPOC(スポック)振動周期とSPOC(スポック)波伝播速度を計測し、動物の静止心拍と相関することを見出し、SPOC(スポック)の生理的意義を提唱したこと(一部を本年JMRCM誌に発表)、5)蛍光ラベル顕微解析法、アミノ酸置換アクチンを導入することで、細胞骨格の構造・機能に関する研究が進展したこと、6)ミクロ温度計を応用して1細胞(HeLa(ヒーラ)細胞など)レベルでの熱発生を画像化したこと、7)ナノ開口・エバネッセント場を用いた弱い生体分子間相互作用研究法を完成し、シャペロニンGroEL-GroES(グロイーエル、グロイーエス)の結合・解離反応について有効性を示したこと、そして、8)表面増強共鳴ラマン散乱による1分子の生体分子内部の状態解析法を開発したことなどである。以上、新しい実験系・実験法の開発を通して、1分子からシステムに至る生体ナノマシンの機能集積の仕組みについて、新しい知見と概念が得られつつある。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 独自の方法論に基づいた独創的な研究であり、質、量ともに十分な成果が上がっている。筋収縮系に関しては、長年にわたる独自の研究の積み重ねにより、ダイナミックな手法で世界に突出した研究および技術開発を進展させている。生物物理の基礎から応用につながる興味深い研究であるが、研究対象が多岐にわたっており、機能解析を中心にもう少し焦点を絞ることが望ましい。海外研究者の参加や国際共同研究などがあり、研究費は効果的に使用されている。また、大学院生が活躍していることは将来の人材育成に大きな期待がかけられる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --