研究課題名:大脳認知記憶システムの分散型メカニズムの解明:サルfMRI法に基づく統合的研究

1.研究課題名:

大脳認知記憶システムの分散型メカニズムの解明:サルfMRI法に基づく統合的研究

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

宮下 保司(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ヒト高次認知機能のなかでも記憶は、思考・自己意識の基礎をなす重要なサブシステムであり、個人の意識体験の連続性ひいては人格そのものも記憶により支えられている。
 本研究の目的は、申請者による大脳側頭葉における記憶ニューロン発見を基礎として、異なる機能階層レベルを貫いた統合的研究により大脳認知記憶システムの分散型メカニズムを解明することである。この目的達成には、一方で、fMRI法を用いて大脳全体にわたる活動の網羅的解析によって分散型システムの全体構造を明らかにすることが必要であり、他方では、ミクロの侵襲的方法を投入してサブシステム内部で生成される情報とその双方向性伝播を解析することが必須である。こうした研究のコアに4.7テスラ高磁場磁気共鳴画像装置による覚醒行動サルのfMRI解析を据えて研究全体を統合的に推進するのが本特別推進研究の中心課題である。以上の目標達成の為に4つの下位目標を設定した。(1)サル用高磁場磁気共鳴画像システムの構築:本計画においては、前頭葉や頭頂葉を含む大域構造を解明することを目指す。こうした大域的研究には、大脳全体の活動をfMRIによって高空間解像度で検出するのが現在最も有力な方法である。(2)ヒトおよびサル大脳活動比較と領野間ホモロジー。(3)文脈記憶、出典記憶の記銘と想起を支える前頭葉・側頭葉機能の解析。(4)サル大脳前頭葉・側頭葉活動の侵襲的ミクロ解析。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 本研究の目的を達成する為、当初計画において上記のように4つの下位目標を設定した。2005年8月現在、これら全ての下位目標において優れた成果が得られつつある。その成果は、既にScience,Natureneuroscience,Neuron,PNAS,J.Neuroscience等の一流誌に発表されている。以下概略を述べる。(1)においては、4.7テスラ磁気共鳴画像装置の構築が完了し、行動サル大脳皮質のBOLD信号取得が可能になった。平成17年度は更に傾斜磁場コイルのアップデイトによって、1shotEPIの実現を目指している。(2)ヒトおよびサルの領野間ホモロジーを解析する研究は、当初の1.5Tシステムにおける成果から出発し(Science295,1532-1536,2002)、4.7Tシステムのfeasibility検証を終了し(Neuron41,795-807,2004)、ヒト大脳連合野における活性化部位とのホモロジーを明らかにした。(3)においては、近時記憶の前頭葉機構(J.Neurosci.22,9549-9555,2002)、記憶情報が自己の記憶貯蔵庫の内に存在するという確信についての発見(Neuron36,177-186,2002;NeuroImage23,1348-1357,2004)、注意の制御・抑制に関わる大脳全体にわたる分散ネットワークを解明する(PNASinpress,2005;PNAS99,7803-7808,2002)等の成果を挙げた。(4)においては、大脳側頭葉内のTE野と36野における前向き情報処理の内容をあきらかにし(J.Neurosci.23,2861-2871,2003)、その形態学的基礎(PNAS100,4257-4262,2003)および局所神経回路(J.Neurosci.inpress,2005)について成果を挙げた。前頭葉においては、心に表象・保持されている知覚情報を運動プログラムに変換するプロセス(Science301,233-236,2003)、記憶情報を操作してワーキングメモリ上でアップデイトする機能(J.Neurophysiol.91,1367-1380,2004)について顕著な成果を挙げた。これらの発見をさらに体系的なメタ記憶制御システムの枠組みに位置付けることを目標として、(3)のヒトに対するメタ記憶課題をサル用に改変した課題を用いて、(2)の高磁場fMRIによって大脳分散ネットワークとして解明するプロジェクトを進めている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 脳機能の中でも解明の難しい記憶システムに対して、よく整備された計画に基づいて順調に研究が進捗しており、国際的にもインパクトの高い論文を多数発表するなど、大きな成果を上げている。サルとヒトに対する機能的磁気共鳴画像を用いた研究によって明らかにされた両者の領野間ホモロジーに基づき、これまでヒトにおいて検討されてきた独創的な記憶課題をサルに適用する段階に入っており、局所回路の研究や機能的破壊実験などによって一層の成果が期待される。今後、分子レベルの研究とも融合し、さらなる発展を図ることが期待される。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --