研究課題名:長寿命・高信頼性遮熱コーティングを実現する拡散バリヤ型ボンドコートの創製

1.研究課題名:

長寿命・高信頼性遮熱コーティングを実現する拡散バリヤ型ボンドコートの創製

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

成田 敏夫(北海道大学大学院工学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 化石エネルギ-変換機器の熱効率向上は炭酸ガス排出抑制と省エネの実効的手段であり、ガスタ-ビンの熱効率は燃焼ガスのタ-ビン入口温度(TIT)の上昇とともに増大することから、TITは発電用ガスタ-ビンの1,300から1,500度に達し、次世代型高効率ガスタ-ビンでは1,700度が計画されている。
 この高温の燃焼ガスからタ-ビンブレ-ド(Ni基超合金)を保護するため、遮熱コ-ティング(TBC)が施されるが、TBCの性能と寿命は、1.トップコ-ト(ZrO2)とボンドコ-ト(MCrAlY)の界面に形成した酸化物(Al2O3系)によるトップコ-トの剥離、2.基材とボンドコ-トの拡散による基材強度の低下が挙げられる。現用のガスタ-ビンでは1.が主要な課題となっているが、次世代型高効率ガスタ-ビンでは、トップコ-トの剥離とともに、基材強度の低下が顕在化すると予想される。
 本研究代表者はボンドコートと基材の間に「両者の拡散を抑制する」拡散バリヤ層を挿入することによって、基材強度の低下のみならずトップコ-ト(ZrO2)の剥離もまた抑制できることを理論的に提案し、Re基合金を拡散バリヤとする、拡散バリヤ型ボンドコートの基礎研究を進めてきた。この成果を踏まえて、本特別推進研究では、超高温環境下における超合金/コ-ティング/燃焼ガス雰囲気の相互作用を解明することによって、長寿命・高信頼性を有する耐酸化性と機械的特性を兼備した拡散バリヤ型ボンドコ-トの低コスト成膜プロセスを開発する。さらに、実機ガスタービン(および、ジェットエンジン)への技術移転による実用化を目指す。なお、高温酸化と機械的特性は互いに独立した学問領域として発展してきたが、本特別推進研究では、材料科学と腐食科学を統合した新しい研究領域を開拓する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 Re基合金を拡散バリヤとする新規なボンドコ-ト層の成膜プロセス(電気めっきと熱処理)を開発し、各種Ni基超合金(TMS-82+,YH61,CMSX-4)とハステロイ合金に(Re-Cr-Ni)/(β+γ'系Ni-Al)の拡散バリヤ型ボンドコ-トを形成し、耐酸化性(1,100度、1,150度;大気中)について調査するとともに、状態図、透過電子顕微鏡による組織観察、引張・曲げ応力負荷による変形挙動、高温変形のその場観察装置の開発を進めている。その結果は、以下のように要約される。

(1)拡散バリヤ層の形成:
 Re-Ni合金皮膜を水溶液から電気めっきにより成膜し、その後高温でCr処理することによって、Re-Cr-Ni系σ相を均一に成膜する事に成功した。

(2)溶融塩めっきによるAlリザバ-相の形成:
 Alを溶融塩から電気めっき法により成膜するプロセス開発を進めた結果、塩化物溶融塩に適量のAlF3を添加しためっき液を開発し、Ni-Al系Alリザバ-相の形成に成功した。

(3)微量La,Y,Hf,Zr等の添加:
 溶融塩から、Alリザバ-層にLa,Y,Hfを添加する電気めっき技術を開発した。この成功は、Al2O3スケ-ルの密着性を大幅に改善することができることから、本研究の進展に寄与するところ大きいものがあります。

(4)1,150度;500時間の耐酸化性:
 本研究で開発した拡散バリヤ型コ-ティング(Re基σ相/Ni-Al(Zr))を形成したNi基超合金の耐酸化性を評価した結果、1,150度、大気中、500時間の耐酸化性を達成した。特に、拡散バリヤ層は健全に維持されていることが明らかとなったことは、本研究の目的遂行のために、重要な成果である。

(5)1,150度、1,000時間の耐久性を達成(最終目標):
 ハステロイ合金に対して、拡散バリヤの安定性を実証した。

(6)状態図の実験的検証:
 1,000‐1,200度における、Re-Al-Ni系およびNi-Cr-Al系状態図を実験および計算の両面から検討し、1,150度での状態図を決定した。

(7)電子顕微鏡によるナノ・ミクロ組織観察は条件決め等の予備的実験から本測定に移行し、拡散バリヤ-相と基材の結晶学的整合性に関する興味ある成果が得られている。
 現在、事業計画を先取りして、実用化への取組みも進めている。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 本研究は、超高温ガスタービンへの実用化を視野に入れつつ、高温環境下における超合金/コーティング/燃焼ガス雰囲気の相互作用を解明することによって、長寿命・高信頼性を有する耐酸化性と機械的特性を兼備した拡散バリヤ型ボンドコートの低コスト成膜プロセスを開発することを目指して研究が進められている。これまでにRe基合金を拡散バリヤとするボンドコート層の成膜プロセスが開発され、Ni基超合金に形成した拡散バリヤ型コーティングが1,150度において500時間の耐酸化性と1,000時間の耐久性があること、ならびに、Re-Al-Ni系およびNi-Cr-Al系の状態図が求められるなどの新たな知見が得られつつある。さらに、透過電子顕微鏡による組織観察、引張・曲げ応力負荷による変形挙動、高温変形のその場観察装置の開発に関しても研究が進められている。以上のように、当初の研究計画調書に概ね沿った形で研究が順調に進んでいると判断した。平成17年度において購入予定のバーナーリグ試験装置が加わることで試験システムがさらに充実し、より一層研究が進展することが期待できる。また、本特別推進研究によって、実機ガスタービンの高効率化に対して有効なコーティング技術の開発指針が提供されること、ならびに、材料科学と腐食科学を融合した新しい研究領域が創成されることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --