研究課題名:原子炉起源、地球起源反電子ニュートリノと太陽起源電子ニュートリノの高精度精密測定

1.研究課題名:

原子炉起源、地球起源反電子ニュートリノと太陽起源電子ニュートリノの高精度精密測定

2.研究期間:

平成16年度~平成20年度

3.研究代表者:

鈴木 厚人(東北大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 1000トン液体シンチレーター・ニュートリノ検出装置を用いるカムランド実験は、神岡近隣の原子力発電所から生成される反電子ニュートリノの消失現象を世界で初めて検出した。この現象は、ニュートリノが質量を持つことに起因するニュートリノ振動を強く示唆する。本研究は上記の研究をさらに推進し、以下の3研究課題を追求する。

(1)原子炉反電子ニュートリノのフラックスとエネルギー分布の高精度精密測定
フラックスをさらに高統計で計測し、同時に反電子ニュートリノ反応の検出効率を向上させることによって、フラックスの絶対量とエネルギー分布の高精度精密測定を行なう。これによって消失現象の有力原因であるニュートリノ振動現象を検出して、振動パラメーターを高精度で決定し、ニュートリノの質量起源の解明を目指す。

(2)地球反電子ニュートリノのエネルギー分布の高精度精密測定
地球内部のエネルギー生成や地球進化史の全容を解明するには、ウランやトリウムの地球内部の全存在量、存在量の内部分布の精密測定が不可欠である。本研究では、(1)と同様に反電子ニュートリノ反応の閾値までのエネルギー分布の高統計・高エネルギー分解能精密測定を行い、地球反ニュートリノの初検出を試み、ニュートリノ地球科学研究を確立する。

(3)太陽電子ニュートリノ(7Be(ベリウム7)太陽ニュートリノ)の高精度精密測定
太陽核融合反応の主過程から生成される7Be(ベリウム7)太陽ニュートリノの単独初検出を実現し、星の進化の初期過程の実験的検証を試み、7Be(ベリウム7)ニュートリノを用いた太陽物理学研究を推進する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 上記の研究課題を遂行するには、カムランド検出器の時間、位置、エネルギー較正精度の向上、液体シンチレーターを純化することによる低バックグランド検出器の実現が不可欠である。このため、4π検出器性能較正装置の開発、蒸留装置・高純度窒素ガス製造装置・放射性気体用脱気装置等の液体シンチレーター純化装置の開発で目標を達成することが要求される。これまでの研究によって、4π検出器性能較正装置と純化装置の開発は終了し、平成17年度までに装置の製作・実験施設内設置が行われる。そして、平成18年度後半から本研究が本格的に始動する予定である。
 本研究プロジェクトでは開発研究と並行して、常時カムランド検出器を稼動させてデータ収集を継続している。平成16年度のデータ解析によって原子炉反電子ニュートリノ消失現象の再確認と、新たにニュートリノ・エネルギー分布の歪を検出し、ニュートリノ振動の証拠を得た。また、太陽ニュートリノ実験データと合わせて、世界最高精度でニュートリノの質量に関する△m2値を決定した。これらはいずれも素粒子物理学に新しい知見を加える成果である。さらに、2005年7月には、749日分のデータ解析から、地球反電子ニュートリノの初検出に成功した。この結果は、ニュートリノによる地球内部診断、すなわちニュートリノ地球科学の幕開けを与えるものである。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 実験装置は順調に稼働中であり、着実にデータの収集が進められている。3つの研究課題のうち、「原子炉反電子ニュートリノ」と「地球反電子ニュートリノ」では、既に優れた成果が得られている。これらの成果は素粒子物理学および地球物理学に重要な意義を持つものとして高く評価する。第三の目的である「太陽電子ニュートリノ」の検出でも、今後導入予定の低バックグランド検出器の実現により、大きな成果が得られることを期待している。研究は順調に進捗しており、現行のまま推進すればよいと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --