研究課題名:質量選択・レーザー多重共鳴振動分光法の開拓による水和ネットワーク構造研究

1.研究課題名:

質量選択・レーザー多重共鳴振動分光法の開拓による水和ネットワーク構造研究

2.研究期間:

平成16年度~平成18年度

3.研究代表者:

三上 直彦(東北大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究では、分子レベルでの水素結合構造の分光研究の飛躍的発展に資することを目指して、分子間結合構造解析のための次世代型分光解析装置を開拓・確立し、水素結合に関わる未踏研究領域の開拓や、水素結合ネットワークの新奇サブナノ構造の解明を実践して、水和現象の物理化学研究を深化させる。そのため、以下の3つの研究課題を推進する。
 [1]質量選択・レーザー多重共鳴振動分光法の開拓
 [2]水和現象における水素結合ネットワーク構造研究
 [3]未踏水素結合研究領域の開拓=イオン状態の新奇・特異水和クラスター構造研究
 物理化学研究の使命は、物質構造や化学物性に関する新原理・現象を発見し、それらを活用した物質解析装置の創出やその基礎技術を確立して物質科学研究に貢献することである。本研究では分子レベルの物質構造解析法として、分子間構造研究における振動分光領域開発が重要であることを確立し、水和構造を含めた水素結合分子間ネットワーク構造の分子レベル解析法を推進している。本研究手法や研究成果は、新しい分子・分子間結合形態研究発展を促し、将来の生命科学分野における酵素タンパクなどの巨大分子物質の機能を分子レベルで研究するための基礎的情報を提供する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 平成17年7月現在、新規OPO/OPA装置の導入により、赤外分光計測領域の拡大を実施し、既設設備と併せて水素結合ネットワーク構造の分光研究が順調に進展している。また、平成17年11月までには、質量選別能力の拡大を目的とした新型質量分析装置の導入による大サイズクラスター構造解析研究や、特殊FTIR分光装置の導入による液体クラスター構造研究を展開する予定である。
 代表的成果は、1)プロトン水和クラスター構造についてクラスターサイズn=4~27(4から27量体)までの分光計測に成功して、水素結合ネットワーク形状を初めて実験的に解明した。2)プロトン付加アルコール水素結合ネットワーク構造解析を同様に実施し、プロトン水和系とは全く異なった構造形態を解明した。3)微弱水素結合研究の一環として、芳香族C-H基の水素結合性を初めて実証し、また、未踏領域の水素結合研究の一例として、Si(シリコン)を含む化合物が2水素結合を示すことを初めて見出した。これらの研究成果は、Science誌や米国化学会誌、同物理学会誌などの国際的著名学術誌に原著論文17報、ICMAT2005など国際会議での招待講演(3件)、ゴードン国際研究会議などでの発表(5件)において公表している。

5.審査部会における所見

A-(努力の余地がある)
 電荷を持つ種々の水素結合クラスターの構造変化の様子を捉えたことは大きな成果であり、これまで未解決のまま残されていた問題の解決に成功しつつあることは評価できる。研究計画の若干の軌道修正が見られるものの、目標に向かって概ね順調に進展しているものと判断した。今後、新しい装置の立上げを進め、よりバルクに近い状態における水素結合の本質を明らかにすることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --