研究課題名:新学問領域「メタロミクス(Metallomics)」の創成

1.研究課題名:

新学問領域「メタロミクス(Metallomics)」の創成

2.研究期間:

平成16年度~平成18年度

3.研究代表者:

原口 紘炁(名古屋大学大学院工学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究は、「新学問領域「メタロミクス(Metallomics)の創成」という研究課題のもとに、生体を構成する元素、とくに微量金属元素の機能と役割を体系的に解明するために、メタロミクスを「生体金属支援機能科学」として提唱し、その実証的研究を推進することを目的とする。現在、ゲノミクス(Genomics;遺伝子科学)、プロテオミクス(Proteomics;タンパク質科学)が生体関連の先端科学として、世界的に精力的な研究が行われているが、メタロミクスはこれらの学問領域と並んで、生物の複製・機能・代謝機構の解明に貢献できるものである。
 メタロミクスの研究は、地球上のヒトを含むすべての生物中にはすべての元素が含まれるとする「拡張元素普存説」に基礎をおくもので、究極の研究目標は、生物細胞1個に全元素が存在するとする「細胞小宇宙説」を証明することであり、その証明に向けた研究を推進している。細胞小宇宙説の概念はこれまでまったく考えられなかったことであり、これを実証できれば、生物はすべての元素を保有して、その生命維持と機能発現を行っているかもしれないという、独創的・新規な先導的概念の創出となり、その学問的意義は極めて大きいものである。また、細胞中全元素分析およびタンパク質の検索は、世界最先端の計測技術の開発にもつながるので、独創的・先端的な分析・計測技術の開発も大いに期待できる。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 メタロミクスの研究においては、(1)メタロミクスの学問的体系化、(2)無機質量分析法と有機質量分析法の複合化、(3)海洋生物卵細胞の全元素分析、(4)海洋生物卵細胞中タンパク質の検索、(5)拡張元素普存説の実証的研究、を具体的な課題として、研究を推進している。これらの研究の推進のために、1.二重収束型高分解能ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置;無機分析用)、2.ESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析計;有機分析用)、3.MALDI-TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計;タンパク質分析用)を平成16年度に購入し、また4.ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分析装置;無機分析用)を購入予定であり、分析・計測法の高感度化と機能化を併せ持つ世界最先端の計測システムを構築しつつある。その結果、海洋生物卵細胞として研究対象にしているイクラ(鮭の卵)中に通常の実験室で取扱いが可能な安定同位体78元素中67元素の検出・定量に成功し、イクラ中に金・銀・白金・ウラン等の希元素も見出している。また、イクラ中のほとんどの金属元素はタンパク質と結合していること、一般に有害・毒性元素と考えられているヒ素は有機態ヒ素として、また水銀はセレノプロテインと結合して存在していることなど、メタロミクス研究として新しい知見が、研究成果として得られつつある。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 メタロミクスを「生体金属支援機能科学」として位置づけ、生体を構成する元素、とくに微量金属元素の機能と役割を体系的に解明することを目標として、実証的に研究が進められている。また、地球上のヒトを含むすべての生物中にはすべての元素が含まれるとする「拡張元素普存説」に基礎がおかれ、生物細胞1個に全元素が存在するとする「細胞小宇宙説」を証明することが目標となっている。イクラ中の67元素の検出・定量に成功するなど、いずれの目標に関しても、当初の計画に概ね沿った形で研究が順調に進んでいると判断した。メタロミクスが、ゲノミクス、プロテオミクスと並ぶ新たな分野として創成されることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --